『MASAI マサイ』60点(100点満点中)
マサイ族の人々自らが、全編マサイ語で演じた劇映画
同じ週公開の『天空の草原のナンサ』がモンゴルを舞台にした癒し系ムービーなら、アフリカを舞台にするそれが『MASAI マサイ』だ。
長い干ばつに襲われたマサイ族の村。雨を降らせるためには、伝説の獅子ヴィチュアを狩り、そのたてがみを神にささげるしかない。そこで長老は村から9人の戦士を選んだ。戦士たちはまだ、幼さすら残るほど若かったが、勇敢にも命がけの旅に出るのだった。
マサイとは、アフリカ、ケニア南部に住む部族。伝統を重んじ、文明社会からもっとも遠いところで暮らす誇り高い民だ。そんな彼らを役者にして、劇映画を撮るという、とんでもないプロジェクトがこの『MASAI マサイ』。構想12年、のべ撮影時間2000時間という力作だ。
監督は、12年もこの地で映像製作に関わっている人で、マサイ族の文化にも詳しく、親密な関係を築いているパスカル・プリッソン。彼のような人物でなければ、この映画は撮れなかっただろう。何しろマサイには読み書きの文化がないし、演技をするという発想もない。そんな彼らに、これだけ台詞や登場人物の多い、本格的な芝居をさせることが、どれほど困難なことか。よほどの信頼関係がなければ、不可能に違いない。
出来上がった作品は、アクションシーンあり、伝統文化の紹介あり、そしてほのかな恋物語もありという、堂々たるロードムービー。アフリカの広大な大地を舞台に、マサイの、マサイによるドラマが繰り広げられる。
体脂肪のほとんどない、野生動物のようなしなやかな身体とその動き、天然の染料で描かれた鮮やかな模様。マサイ族の美しい姿に、まずは感嘆する。ドキュメンタリーではなく、彼らで冒険ドラマを作ろうと考えた監督の発想にも、驚かされるばかりだ。
あまり例のない試みであるから、細かく見れば至らない点もあることはあるが、まったく異質な文化に、ドラマという親しみやすい形で接することができたことについては、なかなか新鮮な感動があった。
出演したマサイの戦士たちには、ギャラとして(貨幣文化がないので)牛が支払われたという。そんな彼らの熱演を、この年末休み、じっくりと味わいに行くのも悪くない。