『天空の草原のナンサ』65点(100点満点中)

普段忙しいビジネスマンにぜひ見てほしい癒し系映画

『天空の草原のナンサ』は、モンゴル出身の監督が、モンゴルを舞台に、遊牧民一家の暮らしを描いたドキュメント風ドラマだ。物語は、モンゴルの昔話を下敷きにした内容になっている。かの国には「輪廻転生」の信仰があり、この映画の中でもその考え方が随所に描かれている。

主人公は6歳になる少女ナンサ。彼女はある日、草原で犬をみつける。一目でその犬を気に入ってしまったナンサは、反対する父に内緒で、こっそりと飼い始める。

出演する一家は、実際の家族で、演技というよりは普段の生活そのままを見せてくれる。とはいえ、本作はれっきとした劇映画だから、ちゃんとストーリーもある。犬と少女の心温まる交流を描く前半があり、終盤には、一家にふりかかるある試練が描かれる。犬もそれなりにしっかりと演技をしており、なんでもカンヌ映画祭ではパルムドッグ(最高賞パルムドールをもじっている)なんて賞も頂いたそうだ。

この映画の見所は、純朴そのものといった感じの少女と、その家族の演技、モンゴルの雄大な風景、犬の可愛らしさなどたくさんあるが、珍しい遊牧民族の生活のディテールを記録した点が、何より貴重といえる。とくに、ゲル(移動式住居)を解体して次なる場所へ移動するあたりのシークエンスは、新鮮な驚きに満ちている。

一言でいえば和み系、癒し系の映画だから、1年間仕事でつかれきったサラリーマンなどに、すすめたいと思う。一緒に見た、徹夜続きの某週刊誌記者も、大変なごんだと言っていた。皆さんも、ゆったりとしたモンゴルの時の流れを体験してみてはいかがだろう。



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