『チキン・リトル』50点(100点満点中)
安全パイの塊
年末恒例の長編ディズニーアニメーション。……とはいえ、『チキン・リトル』には、これまでのディズニー作品とは大きく異なる点がある。それは、この作品は、はじめてディズニーが自前で製作した、フルCGアニメ映画ということだ。
ちなみに、大ヒットした『ファインディング・ニモ』や『Mr.インクレディブル』は、3D-CGの技術に定評があるアニメスタジオ、ピクサー社が製作し、ディズニーの名前を冠して配給された。今回はじめて、ピクサーのネームバリューに頼らない、ディズニー純正CGアニメの実力が試される。要注目である。
のんびりした小さな町で暮らすニワトリの少年(声:ザック・ブラフ)は、ある日"空の破片"が落下してくるのを発見する。町中をひっくり返すような大騒ぎに発展したものの、結局破片は見つからず、皆から笑い者になる始末だった。大好きな父親の信頼もなくし、失意の中、再び彼は"空の破片"を目撃する。
ディズニーは、ヒットメーカーのピクサーとの契約が次回作の『カーズ』で切れてしまうので、なんとかそれまでに売れセンのCGアニメのノウハウを手に入れたいところ。しかし現在のところ、ピクサーの諸作品に比べると、米国市場での人気はかなり劣るという、厳しい結果になっている。
その原因は、エンタテイメント映画に必要な、驚きや笑い、感動が薄い、つまり、すべての要素が平凡という一点に尽きる。ストーリー、キャラクター、テーマ……それぞれ安全パイを選んでいった結果、出来上がりました、という印象だ。
物語は起伏に乏しく、キャラクターも地味だ。別に奇をてらう必要はないが、チキン・リトルには、向こう50年このキャラクターで食っていこう、という覚悟が感じられない。要するに、お手軽映画、のイメージだ。
ディズニー映画は子供の夢であるから、作り手は何でもやれるわけではない。むしろ、制約が多い世界だから、少しでも気を抜けばどれも似たような作品になってしまう。しかし観客の目は、そんな似たようなディズニー映画の中でも、どれが本物でどれがお手軽品か、本能的に見抜いてしまう。たとえば、傑作『ファインディング・ニモ』は、水中のチリまで表現した高度なCG技術による作品だが、そんな事を一切知らぬ観客にも、なんとなく「この映画は本物だ」と、そのクォリティの高さは伝わる。今後はディズニー純正でそうした「本物」を作らねばならないのだから、彼らも大変だ。
ところでこの『チキン・リトル』、『宇宙戦争』や『レイダース』など、ハリウッド大作のパロディ的な内容だったりするわけだが、ラストの上映場面などを見ていると、この映画の作り手は「自分たち=ハリウッド」という強い自信を持っているらしく、なんだか笑えた。
なおこの作品は、一部の劇場では3D=立体映画バージョンが上映されるという。内容がイマイチなので、どうせならそういう、付加価値つきの劇場で観たいところだ。