『ロード・オブ・ウォー 史上最大の武器商人と呼ばれた男』85点(100点満点中)

押し付けがましくない社会派映画

この映画は、実在した伝説的な武器商人数名のエピソードをまとめ、架空の男の一生として描いた、半実話の劇映画だ。主演は「ナショナル・トレジャー」等で活躍中の人気俳優ニコラス・ケイジ。彼ほどの役者が主演する大作ドラマにもかかわらず、題材があまりにデリケートだったため、イラク戦争真っ只中だった米国内では資金調達できなかったという、いわくつきの作品だ。結果、配給会社のあるカナダなど、外国からの投資で製作資金をまかなった。

主人公は、ソ連崩壊前のウクライナで生まれ、家族ともども米国に移住したユーリー(N・ケイジ)という男。彼は、あるレストランでのギャング同士の銃撃戦を見たことで開眼し、弟と二人で武器ビジネスをはじめる。その後、"人生最大の幸運"、ソ連が崩壊し、膨大な武器が彼ら闇商人の手へと流れてくる。そこで莫大な富を築きあげた彼は、長年の憧れの女性(ブリジット・モイナハン)とも結婚し、順風満帆かに見える生活を送る。しかし背後には、ずっと彼を追っていたインターポール(国際刑事警察機構)の刑事(イーサン・ホーク)が迫っていた。

『ロード・オブ・ウォー』は、LORD OF WAR だから、「戦争を支配する者」というような意味だ。そのタイトル通り、ニコラス・ケイジ演じる主人公は、武器の流通を握ることによって、世界中の戦争、紛争を支配しているかのごとき立場に立つようになる。

ストーリーの面白さは抜群で、普通はあまり知ることのない、しかし興味深い世界ということで、画面にかじりつくように見ることができる。実話を元にしてはいるが、あくまで劇映画ということで、製作側には大胆に脚色を加えられるという自由がある。そのおかげか、とても見やすくなっている。

その分、主人公がのし上がるまでの過程があまりにトントン拍子で、簡単に見えるなどの違和感があるが、それがこのテンポのよさを生んでいるので、不満ということはない。

物語は、徹底してニコラス・ケイジを追いかける形で展開する。常に彼の顔が画面に入っているのではと思うほど、まさに出ずっぱり状態。主人公は、残虐な性質ではなく、むしろ人間味あるただのビジネスマンといった設定なので、自分が売った武器で人が死ぬことに苦悩したりもするのだが、あまりそうした悩みをドロドロ描くことはなく、ライトなタッチで話は進んでいく。

特筆すべきはオープニングで、ここではある1発の銃弾の誕生から、その役目を終えるまでの"一生"が、VFXを使って描かれる。この一連のシークエンスを見ただけで、なんだか入場料分くらいのお徳感を味わえた気になる。

社会派の映画であるが、押し付けがましさがなく、気軽に見られる。アメリカ政府こそが最大の悪じゃないのか、と匂わせるテーマも、まあありがちではあるが素直に受け取れる。年末年始に、気軽に反戦風味の劇映画を見たい方は、ぜひ候補に入れておいてほしい一本だ。



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