『ザ・コーポレーション』75点(100点満点中)
企業の裏側を暴く、娯楽性の高いドキュメンタリー
現在、資本主義……というより、アメリカ式のグローバリズム、自由経済の弊害が、世界中で非難を浴びるようになってきた。そうした問題を扱ったドキュメンタリー、それがこの『ザ・コーポレーション』だ。
タイトルにもなっている"企業"とはいったい何なのか。その行動原理や、現在地球にどのような影響を与えているかを、まずは順に分析する。企業は"法人"という擬似人格を与えられているくらいなのだから、人間に対する診断手法も当てはまるはず、というユニークな視点から、企業を分析し、彼らを"サイコパス"と診断する。この冒頭がかなり面白く、一気に引き込まれる。
その後は、現在グローバル企業の犯している様々な犯罪、非道徳的な所業の数々を紹介していくわけだが、つまりはこうした、企業犯罪に対する批判こそがこの映画の本質であろう。145分間、観客を飽きさせぬために、随所にエンタテイメント的な演出が見られ、なかなかよく工夫しているなと感じさせる。
扱うテーマは、ボリビアにおける水道民営化問題や、ホンジュラスの工場におけるひどい搾取の問題(あっと驚く超有名企業の工場だ)、遺伝子組替え作物によって世界の農業を支配せんと企むグローバル企業の問題など、多岐にわたる。こうして文章で書くとわかりにくいが、映画では誰もが知っている会社やブランドの名前を堂々と名指しで批判、その実態を暴露している。この過激さはマイケル・ムーア(『華氏911』など)の手法に通じるものがある。
実際、ムーア自身も作中でインタビューを受けており、何度も登場する。日本でもDVDが発売されている、非常に面白い、彼のTVのドキュメンタリー番組の一部が流れたりもする。
その他も、アメリカでBSE問題を追及しようとしたところ、企業から圧力がかかり、テレビ局をクビになったジェーン・エイカー氏や、多国籍企業による、中小農家への迫害に果敢に立ち向かうインドの市民運動家ヴァンダナ・シヴァ氏など、消費者・市民運動の世界における超有名人たちが次々と登場する。
私はかつて消費者団体で仕事をしていた事があるので、多くの名前を知っていたが、お顔を知らない人も幾人かいたので、個人的にはとても興味深く見ることが出来た。このように、世界の消費者運動の最前線を、実際に本人たちの声とともに見、おさらい出来る点は、この映画の特徴のひとつだろう。
健全で華やかなコマーシャルでしか企業を知らない人が見たら、嫌悪感を抱くようなその裏側。そうしたものに興味がある方にとって、このドキュメンタリーは最適な一本だ。ただ、扱う題材が多く、また結構なところまで突っ込んでいるので、145分間という長尺でありながら、かなり駆け足なのは否めない。
今回私は、ごく一般的な感性を持つ、都会のはたらく女性の意見も聞いてみたくて、試写にスタイリスト(30代独身 長身)を連れて行ったのだが、彼女によると、「面白いが、途中テンポが早すぎてよくわからんかった。あと長い。70点!」との事であった。まあ、確かにまったくの初心者だと、ついていけない部分もあるだろうが、あまり細部を気にせず見れば、それほど難解な内容ではない。
それにしても、欧米の運動家たちのやり方はじつにユニークだ。この映画にしても、誰が見ても十分楽しめるし、退屈しないだけのエンタテイメント性がある。一般の人々に問題を知らしめる効果も抜群だ。
それに比べ、日本の消費者運動は、ン十年前からやり方がまるで進歩していない。このままでは、その社会への影響力は縮小するのみではなかろうか。それは決して、世の中の人々にとって良い事ではない。『ザ・コーポレーション』のような映画作品をよく研究して、もっと上手に世間にアピールする必要があるだろう。