『Mr.&Mrs スミス』55点(100点満点中)

大スター初共演の、能天気なカップル映画

大スターひしめくハリウッドを見回していると、ときおり「この未競演の二人で映画を撮ったら、いったいどうなるんだろう?」と思わせる組み合わせがある。この『Mr.&Mrs スミス』に主演しているアンジェリーナ・ジョリーとブラッド・ピットなどまさにその好例で、その微妙なキャラクターの違いから、どうしても同じ映画に出ているところが想像できない、というパターンのひとつである。つまりは、共演したこと自体がウリになってしまう二人ともいえる。

そんな彼らの初顔合わせは、ラブコメ風味のアクション作品。気楽に笑い、ロマンスにウットリして帰ってね、というカップル映画だ。

最近、ちょっぴりすれ違い気味なスミス夫妻には、お互い絶対に明かせない秘密があった。二人はなんと、対立する別組織に所属する腕利きの殺し屋だったのだ。あるとき、いつもどおり妻(A・ジョリー)が暗殺作戦を遂行していると、偶然同じターゲットを追っていた夫(B・ピット)と接近遭遇してしまう。しかも、それを知った組織からは、現場を見られた相手を殺せとの命令が出てしまう。

そこから先は、二人の凄腕夫婦がそれぞれ殺し合う?! という展開になる。

この映画のファーストシーンは、この美男美女カップルがカウンセラーらしき人物相手に、結婚生活について打ち明ける場面。しっかりものの妻と、大事な事をうろ覚えな夫、という基本構図がここでまず明らかになる。このときの二人の演技が最高で、両者に好感をもつ人なら一気に映画に引き込まれるだろう。

アンジェリーナ・ジョリーは、「トゥームレイダー」で演じたララのように知的かつ情熱的な奥さん役が、バッチリ似合っている。役柄を完璧にものにしている印象だ。対するブラッド・ピットも、有能なのになんとなく奥さんにはうまく操られてしまっている、そんなタイプの男を好演。この二人は、どちらもスタイル抜群で、とくにブラピは、あれだけプロポーションのいいアンジーより、さらにお顔が小さい。まったくもって、恵まれすぎた遺伝子である。全シーン、そのまま切り抜いてポスターに出来るんじゃないか、ってほど絵になる二人だ。

お話のほうは、荒唐無稽かつのんきな、いつものお気楽ハリウッド映画で、この上なく薄っぺらい登場人物が、ひねりのないストーリーを器用にこなすというものだ。ただ、さすがにこの二人の大スター共演にふさわしい予算規模なので、カーチェイスは3台のピカピカなBMWが豪快に転げまわるし、家などの建物も景気良く吹っ飛ぶ。銃撃戦も迫力十分だ。なにしろスケール感があるから、シネコンなんかの音のいい劇場でなら、なかなか面白く見られるだろう。

ただ、筋書きにはまったく緊張感がない、つまりはロマコメの変種であるから、そういうジャンルが苦手な人は退屈であろう。あまりに能天気な展開ばかりで、私など、途中でなんだか、どうでもよくなってしまった。つまり、話への興味を失ってしまったのである。

しかしまあ、これはあくまで、試写室へ一人きりで出かけて見るという、この映画の企画意図からすれば、まずありえない鑑賞環境での出来事。これをもって、本作を駄作というのは乱暴というものだ。もしこれが綺麗な映画館で、何かのハレの日に、かわいい女の子(精神年齢低め)と一緒にデートで見たとしたら、そこそこ面白いに決まっているのである。

娯楽映画というものは、誰とどこで見るか、そこまでは何を使って出かけるか、そういう周辺要素を出来る限り踏まえた上で評価しないと公平ではない(と私は考えている)。作り手だって、想定したお客さんてものがあるだろうし、そうした人々にこそ、評価してもらいたいと考えているはずだ。この手の映画を、むさくるしいオヤジ評論家に、自宅で小さな画面で見て文句を言われてしまっては、かなわないであろう。

だいたい、こういうハンサム&美女が、見たとおりの役柄で、惚れた腫れたとやっている映画というのは、映画マニア等のうるさ型にはバカにされがちなのだ。まあ、確かにラジー賞なんかには、真っ先にノミネートされそうな作品ではあるから、あくまでご自身の好みと相談の上、それぞれきっちり「見るシチュエーション」を作ってから劇場へどうぞ、とアドバイスしよう。



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