『親切なクムジャさん』35点(100点満点中)
あまり説得力はないが、復讐方法は三部作でも指折りの残虐さ
『復讐者に憐れみを』『オールド・ボーイ』に続く、韓国のパク・チャヌク監督の"復讐三部作"完結編。
清楚なルックスのヒロイン(イ・ヨンエ)は、わが子をある男(チェ・ミンシク)に人質に取られ、その男の罪をかぶって13年間投獄されてしまう。13年間の刑務所生活で怨念の塊と化した彼女は、出所後、復讐を開始する。
パク監督の復讐三部作は、すべて復讐をテーマにした映画だが、それぞれは独立した物語だ。もちろんこの作品から、あるいはこの作品だけを見ても何の問題もない。今回復讐者を演じるのは韓国の誇る清純派イ・ヨンエ。この、虫も殺さぬような顔をしたお姉さんが、残虐な復讐劇を見せる意外性がひとつの見所だ。まあ日本で言えば、小倉ゆうこりんが血まみれになりながら男をぶち殺すような、そんな映画だ。
このヒロインは長い刑務所生活の中で、数々の凶悪犯たちと仲良くなっていく。そして、出所後にそうした"人脈"を利用して、自分を陥れた男に復讐を遂げんとするのである。そんなわけで彼女は、凶悪犯たちからも一目おかれ、やがて「親切なクムジャさん」と呼ばれるようになっていく。
韓国人は、相手に尊敬や敬愛の念をこめて「親切な」という表現をよく使う。そして、「クムジャさん」というのは、韓国ではかなり古典的な名前だそうである。今の若い女性にはほとんどいないそうだ。日本で言えば「淑子」とか「艶子」とか、そんな感じだろうか。
女の子の名前といえば、先日私が母校(高校)に後輩の子と遊びに行って、教室に張ってある名前を見たときも、そのハイカラぶり(?)に驚いたものだ。私など、思わずAV女優かエロゲーのキャラクターの名前の羅列かと思ったが、今はそんなの普通だという。私もそのうち芸名を今風に変更するとしよう。
さて、映画の話に戻るが、ヒロインが刑務所内で「親切なクムジャさん」になっていく、そのアイデアにイマイチ必然性を感じないのが残念だ。彼女がここで作った人脈を出所後に利用できたのは偶然の要素も大きく、当初から計画していたわけではあるまい。そうであったならば、その恨みの強さが際立って良いと思うのだが。
そのためか、出所後の彼女を見ていても、13年分の恨みの大きさがあまり感じられない。竹島問題で指をつめて日本政府に抗議したオジサンの方がよっぽど怖い。このため、三部作を通してメインテーマとなっている"復讐"が際立ってこない。
ただし、彼女が行う復讐方法、これは凄い。見た目も内容もインパクト十分。この監督らしい、「痛み」のアイデアが凝縮されている。気の弱い方などは、絶対に見ることができそうもない。というか、そういう方はこの監督の最近の映画は見ないほうがよろしい。
復讐者に清純なルックスの女をあてたまではよかったが、その後の説得力に欠ける脚本、これがこの映画の難点だ。もともと一般ウケはしないタイプの作品だと思うが、いったいどこまでお客さんを呼べるだろうか。