『シン・シティ』60点(100点満点中)

見る人をかなり選ぶが、この個性は捨てがたい

「ロボコップ」シリーズの2、3や「デアデビル」「エレクトラ」といった作品の原案などで知られるフランク・ミラーの原作コミックを、本人がロバート・ロドリゲスと共同で監督したもの。しかも、劇中のあるシークエンスは特別監督としてクエンティン・タランティーノがギャラ1ドル(自称)で引き受けた。

この映画は、全編モノクロに部分着色した映像で、原作漫画のタッチと同じく、非常にコントラストの強い、独特な美的感覚のもとに作られている。原作ファンにいわせると、コマ割りまでもかなり忠実に再現した映画化になっているという。

物語は、大きく3つのパートに分かれたオムニバス形式で、それぞれにハードボイルドな主人公がいて、すべて「大切な女」のために、「巨悪」に戦いを挑むという構成になっている。3つのストーリーはある一点において交錯するが、それぞれの物語を視点が行き来することはなく、おのおの独立した短編として楽しむ形になっている。

アメリカの大作映画としては、相当マニアックというか個性的なつくりで、ライトユーザーは相応の覚悟を持って劇場に入ったほうがよい。逆に、通り一遍な作りのハリウッド映画に飽き飽きしている人や、この個性派監督のファン、豪華ながら風変わりなキャスト陣に興味を持った人にとっては、期待にそえるだけのものがあるだろう。

とくに、各パートで主人公を演じる男優たちは誰もが中年の渋さをいかんなく発揮していてカッコいい。中でもミッキー・ロークはとてもいい。この、忘れられつつあった主演級俳優の魅力を全盛期並に引き出した監督の手腕は見事なものだ。彼も、透けパンでボクシングなんてやっていなければ良かったのだが。人生、何で転ぶかわからない。明日もがんばれネコパンチ。

もう一人役者を挙げるとすると、女殺し屋のデヴォン青木などは面白い役柄だ。刀を持って殺しまくる無敵の日本人というフシギな役なのだが、やってるコトの残酷さと、見た目のオリエンタルなムードが妙にマッチしている。

逆にマッチしていない点で目立っているのは、ロード・オブ・ザ・リングで正義の主人公フロドを演じたイライジャ・ウッドか。彼は汚れ役をやらせても上手いのだが、この映画の役柄はあまりにもひどい。何がひどいって……まあ、見ればわかるが、ファンは驚くだろうねぇ、きっと。ちなみにこれは誉め言葉である。

この映画、残酷シーンが多く、それもかなりエグい内容であったりするのだが、モノクロである点と、いい具合に肩の力を抜いたゆるい雰囲気が遊び心を感じさせているおかげで、それほど後には残らない。まあ、普通のオトナの人であれば問題はない。しかし、間違っても小さい子供には見せないほうが良かろう。

さて、冒頭に書いたタランティーノが監督した場面は、中盤に現れる不気味なドライブシーンだ。あまりにシュールな設定で、そのくせ軽妙な会話劇が繰り広げられる奇妙な場面であり、短いながらもインパクトは大きい。ファンの方はたっぷりと味わうが良かろう。

「シン・シティ」は、さびれかけたオヤジのカッコよさ、ハードボイルドの魅力を存分に味わえるスタイリッシュな一面と、少々おフザケの過ぎた残酷アクション、そして、不器用ながらも誰よりも熱く女を愛する男たちの純粋な気持ちに感動できるオトナのための良質なエンタテイメントだ。相当アクが強く、ほとんどの方には向かないが、気に入った人は相当はまってしまうと思われる、そういう性質の映画だ。



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