『がんばれ!ベアーズ ニュー・シーズン』90点(100点満点中)
オリジナルの魅力をよく理解した素晴らしいリメーク
少年野球映画の不朽の傑作『がんばれ!ベアーズ』(76年)のリメイク。
かつてはメジャーリーガーだったが、いまやアル中の害虫駆除業者に落ちぶれた主人公(ビリー・ボブ・ソーントン)に、リトルリーグのチームのコーチの依頼がくる。単に金のために引き受けた彼だったが、そのチーム"ベアーズ"の恐るべきダメさに愕然とする。悪ガキやいじめられっ子、英語すら話せない外国人、車椅子の少年など、メンバーはやる気のない連中ばかり。案の定、なんの練習もせず挑んだ初戦において、ベアーズは想像を絶する大敗を喫してしまう。
いやはや、素晴らしいリメイクである。オリジナルの魅力をよく理解し、少しだけ新しさを加えた忠実なつくり。やはり、あれだけ完成度の高い脚本は、そうそう変えられるものではない。また、変えるべきではない。しかし、数十年を経て、何も変えていないこのリメイクをまったく古さを感じずに見ることが出来るとは、モトがいかに完成度の高い物語だったかということでもある。
新旧ともに『がんばれ!ベアーズ』パート1のもっとも奥深いところは、意外にもこの少年野球映画が、決して「勝利・成功の喜び」や「チームワーク・友情の大切さ」といったありふれた主題のみを描いているのではないということだ。無論、そうした要素もあるにはあるが、この作品が他の凡庸なスポ根ドラマと違うのは、一番言いたい事がそれらとは別の部分にあるという点だ。
それが何かは、素晴らしいラストシーンを見ればわかると思うのであえて書かないが、この作品をあえて私たち大人(とくに庶民)が見て、強く感動する理由はまさにそこにある。そして同時に、個を大切にするアメリカらしい雰囲気も素晴らしいと感じられる。
前半は、ベアーズの悪ガキどもの傍若無人なふるまいが最高に楽しい。とにかくまあ、口の悪いガキどもで、その子供離れした毒の強さには思わず爆笑。日本のクレヨンしんちゃん程度の毒で、「憎たらしくて嫌い」という人にはとてもすすめられないが、本来子供なんてのは毒があるトコが可愛いものだ。私はこのチームの子供たちの放つジョークのどぎつさが最高に好きである。
後半はオリジナルどおり、コーチの娘であり豪速球投手のアマンダや、強打者の不良少年ケリーがスカウトされ、ベアーズの快進撃が始まる。娘のアマンダ役サミー・ケイン・クラフト、ケリー役のジェフリー・デイヴィスは、役者である前にリトルリーグの経験者であり、そのフォームはじつに美しい。なんといってもアメリカの野球少年は、小さいくせに大リーガーと同じ攻撃的なバッティングフォームで構える所がいい。
彼らをはじめ、監督も主演のビリー・ボブ・ソーントンもみな本格的な野球経験者。当然ながら野球のシーンはまったく不満がない見事な出来映え。野球映画とはこうでなくてはならない。この点がまるっきりダメだった日本の『タッチ』の関係者は、ぜひ見習ってほしい。
ビリー・ボブ・ソーントンは、いまこの役を演じられるのはやはり彼しかいないだろうと思わせる名演。その娘役サミー・ケイン・クラフトは、オリジナルよりは演技力の点で大幅にマイナスではあるが、決して雰囲気は悪くない。何より投球シーンが本物だ。まあ、オリジナルでこの役を演じたのは、史上最年少のアカデミー賞受賞者テイタム・オニールだから、比べるのは酷というものか。
現代の映画らしく、子供がお酒を飲む場面はカットされていたり、車椅子の少年が追加されたりなどの小変更はあるが、おおむね違和感はなく、まとまりはいい。ラストシーンがちょいと説明的になっているのが余計だが……。試合場面に挿入されるビゼーの「カルメン」など、往年のファンの心をくすぐる演出もある。ちなみに私はこの曲を、ウェイトトレーニングのここ一番の本番セットにおいて、大音量でいつも流す。トレーニング愛好者にはおすすめのやり方である。
ともあれこれは、予想以上によい出来であった。オリジナルは文句なしの100点であるから、このリメイクは90点、そのくらいがまあ、妥当なところだろう。