『忍 SHINOBI』60点(100点満点中)

デートムービーに最適な現代風忍者アクション

独自の世界観で忍者を描いた山田風太郎の「甲賀忍法帖」をもとに、最新のVFX満載で実写映画化したもの。

ときは徳川家康が天下を統一した後の1614年。伊賀と甲賀の二大忍者勢力は、互いの交流を断ち、争うことも禁じられていた。ところが両陣営の跡取りである朧(仲間由紀恵)と弦之介(オダギリジョー)は、それぞれの身分を知らぬまま偶然に出会い、恋に落ちる。さらに、家康からの非情な命令「両陣営から精鋭5名ずつが戦い、勝者により次期将軍が決せられる」が下され、二人はその、互いの存亡を賭けた殺し合いに参加を余儀なくされてしまう。

ストーリーはやや子供向けだが、映像はなかなか本格的。ハリウッドというよりは「HERO」「LOVERS」あたりの、ワイヤーワークを多用したアジアのアクション大作の影響を大きく受けたと思われる雰囲気になっている。オリジナリティがないのは大問題だが、CGもセットも良く出来ているため、安っぽさはない。

ただ各忍者の衣装だけは今風にアレンジされており、アクションも現代的な雰囲気。5名ずつの精鋭忍者同士の戦いは、それぞれ見ごたえがある。ちなみにこの作品で言う「忍者同士の戦い」というのは、刀で切りあったり手裏剣を投げたりするにとどまらず、ほとんど超能力合戦、SFの粋に達しているものだ。とはいえ決してバカらしくはない。撮影がしっかりしているためか、普通にカッコいいと思えるものだ。映像的にもとても派手で、見栄えがする。

物語は、仲間由紀恵とオダギリの恋愛がメインになっており、徳川家康ら実在の人物が絡んできてはいるが、歴史的な考証といったリアリティは皆無だ。携帯電話がない時代なのに情報はあっという間に伝達されるわ、政治家はいとも簡単に情に流されるわと、いいかげんにも程がある内容になっている。無論、これはそういう部分に文句をいうべき作品ではなく、気楽にアクションを楽しみ、美男美女のラブシーンに酔いしれるという娯楽映画なので、その点は大したマイナスではない。

役者はみんなそこそこだが、脇役の椎名桔平や坂口拓あたりは特にいい味を出していた。もちろん主演の美形コンビも期待通り、そつなくこなしている。

『忍 SHINOBI』を見ると、いまや日本でもそこそこのお金をかければ、ハリウッドや香港の大作風のアクションが撮れるのだなということがわかる。ちょいとシナリオに無理があるため、イマイチといった印象はぬぐえないが、映像と役者だけはそれなりに見られる。このくらいのエンタテイメントを作ってもらえれば、映画ファンドとしてこの映画に投資した人々も許してくれるのではないだろうか。



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