『チャーリーとチョコレート工場』70点(100点満点中)

≪あまり教育によろしくない子供向けファンタジー

主演ジョニー・デップ、監督ティム・バートンという個性派コンビによるファンタジックなブラックコメディ。ロアルド・ダールによる世界的な子供向けロングセラー『チョコレート工場の秘密』の、二度目となる映画化。

ジョニー・デップ演じるウィリー・ウォンカは、"世界一おいしい"チョコレート工場の経営者。その斬新な新作お菓子の数々は、子供たちの心をつかんで放さない。ある年の冬のこと、これまで謎のベールに包まれてきた彼のお菓子工場を見学できる権利を、世界中の子供たちの中から抽選で5人に与えるとウォンカは発表した。そのゴールデンチケットは、世界中で販売される板チョコの中に無作為に同封されているという。

てなわけでさあ大変、チョコ好きの子のチョコ消費量はさらに増えるわ、金持ちによるチョコの買占めが始まるわで世界中は大騒ぎ。そして、一年に一度、誕生日だけその板チョコを買ってもらえる主人公の貧乏少年も例外ではない。彼は必死の思いを込めて今年のチョコレートの包みを解くが……というお話。

主人公少年は、家に同居する4人のじいちゃんばあちゃんの事を心から愛し、そしてみなからも愛されているじつに性格のいい男の子で、この物語に登場するほぼ唯一のマトモな人物だ。貧しいとはいえそんないい子が、世界中で5枚しかないゴールデンチケットをまあ、幸運にも入手するわけなのだが、ここから先、よくある美談的展開にならないあたりがこの映画のひねくれたところ(?)といえるだろう。

5人の子供たちは、めでたくチョコレート工場を見学できるが話はそう簡単ではない。ウォンカによれば、その中からさらに1名のみに、特別なプレゼントを用意しているというのだ。遊び心満載の彼のこと、きっとすばらしいプレゼントに違いない。主人公以外の4人の子供とその親たちは、手段を選ばず他の4人を蹴落とそうと必死になる。

当然、見学途中で脱落者(?)が続出する展開になるのだが、その子供らの行く末がひどい。詳しくは映画を見てもらいたいが、そりゃもう悲惨というほかはない。大人が見ればブラックなジョークですむ話だが、小さな子供の観客がみたら本気で怖がる可能性すらあるだろう。無論そこには一見立派な教訓が隠されているわけだが、私には監督が面白がって悪ふざけしているようにしか思えない。

そもそも、主人公少年がゴールデンチケットを手に入れるまでの展開がひどい。ハリウッド的ともいうべき健全な経過をもって入手するとだれもが思いきや、実際はまったく違う。誰がどう見ても「そんなふざけた入手法があるかボケ」と怒り出すこと必至なオチである。こういう、一筋縄ではいかないところがこの映画(と、この監督)の魅力なのだ。『チャーリーとチョコレート工場』は一見子供向けの健全なファンタジー童話に見えるが、実際はまったく違う。大人を笑わせるための、隠れたブラックコメディだ。

チョコレート工場の中は、原色を多用した奇妙な世界が広がる。その主であるジョニー・デップの役作りもなかなかエキセントリックで、存在自体が非常に楽しい。彼はこういう役を苦もなくこなしてしまう、恐るべき俳優だ。薄気味悪い奇妙な男を、それでもなかなか魅力的な人間にみせてしまうのだから大したもの。本作では原作にないウォンカの過去も描かれており、それがちょいと意外な結末にしっかりとつながっている。

とにかくこの映画は、「本当によくまとまっている」と感じられる一本だ。工場内のファンタジックな造形美など、子供向け映画の体裁を取りながら、その実大人を楽しませる魅力にあふれている。私は大して面白いとは思わないが、小人のダンスシーンなんかもじつに遊び心(ふざけ心?)に溢れている。人によってはウケるだろう。

あらゆる場面にちりばめられたオフザケと、クスクス笑いを引き出すブラックなギャグ、きわめてマジメに落とした結末など、そういう要素を好む方にはぜひすすめたい、今週のおすすめだ。



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