『NANA ナナ』75点(100点満点中)
人気漫画の映画化としてはまれにみる成功例
累計2200万部を売上げ、現在も連載中の大ヒットコミックの映画化。矢沢あいによるこの原作は、幅広い年齢層の女の子に絶大な人気を誇る。
成功を目指すロックバンドのボーカリスト大崎ナナ(中島美嘉)と、遠距離彼氏を追いかけてきた小松奈々(宮崎あおい)。同じ名前を持つ二人は同じ上京列車の中で出会い、意気投合する。やがて部屋探しの折に偶然再会した二人は、その部屋で共同生活をはじめる。性格は正反対の二人だが、それでも強く引かれ合い、やがてお互い不可欠な存在となっていく。
映画『NANA』は良かった。原作を知らない者も原作のファンも、どちらも恐らく楽しめるであろうなかなか優れた青春友情ドラマとして成り立っている。
『NANA』は、二つのライバルロックバンドと二人のナナを中心にした狭いコミュニティの中で、あちらこちらで恋愛が始まったり切れたりするという、いかにも女の子が好きそうなディープな人間ドラマである。少女漫画の範疇にはいるとはいえ、その描写はなかなか大人っぽく、セックスやら妊娠やら結婚といった話も(原作には)出てくる。映画版でも、人気歌手の中島美嘉が、ちゃんと原作どおり元カレの本城蓮(松田龍平)とバスタブに入る重要な場面を演じている。
原作といえば、この映画ほど見事に原作の雰囲気を映像化した映画はあまりない。二人のナナをはじめとするキャスティングはほぼ完璧で、外見も似ているし、雰囲気もバッチリ再現している。映画版は二人のヒロインに絞った話になっているので、(本当はそれぞれ魅力的な)バンドのメンバーらはかなり扱いの小さい脇役に甘んじているものの、キャラクター造形に手抜きはなく、それぞれがしっかりと存在感を示している。上映時間の制限があることを考えたら、これはすごい事だ。
ヒロインのことを言うと、中島美嘉は台詞は下手だが、キャラ作りは完璧だ。本職が歌手であることを思えばこれは十分合格点をあげていいだろう。あまり多くはないが、歌を歌う場面はさすがに圧巻である。原作の見せ場であるテーブルの上でのライブの場面も見事に演じきった。
宮崎あおいは、中島ほど原作キャラクターの雰囲気を忠実に再現しているとはいえないが、決して悪くはない。特に、ハチ(中島演じるナナは、宮崎演じる奈々をこう呼ぶ)の演技における最大の重要ポイントである『モノローグ』がうまい。
ここで説明すると、『NANA』におけるヒロインのモノローグは、作品の魅力の大きな部分を占める要素だ。『NANA』は、未来のある部分から過去を回想するという構成の物語で、それぞれのエピソードにはヒロインのモノローグがつくのであるが、普段ノーテンキに明るいハチが、モノローグにおいては180度その雰囲気を逆転したシリアス、深刻なムードになるのだ。これは、『NANA』が将来バッドエンドを迎えることを予感させる効果を生み、物語の神秘性、先が気になる感を大いに高めているのである(事実、一部ファンサイトでは“ナナ死亡説・殺害説”なども飛び交っていたりする)。だから、宮崎あおいがこのモノローグをとても上手にやっているという点は、原作ファンにとっては大いに安心できるポイントとなるのである。無論、原作など知らない観客に対しても、同様の効果を与えているのはいうまでもない。
さて、もうひとつ言及しておきたいのは、映画版『NANA』が、非常に見事な衣装、美術セットを持っているという点だ。ヴィヴィアン・ウェストウッドを中心としたナナの衣装(とくに例の赤いドレス)、もしくは、二人が暮らすアパートの部屋。これはもう、外観から窓外の景色、ナナが手作りするテーブルから部屋の間取りまで、よくぞ再現したとしか言いようのない見事なものだ。スタッフはじつによくがんばった。
そして、映画版が漫画版を凌駕しているのが、すばらしい音楽だ。ヒロインの元カレが在籍するライバルバンド、TRAPNEST(トラネス)が歌う主題歌など、実にいい。ちなみにボーカルのレイラは原作の後半では物語に大きく絡んでくるキャラクターだが、映画版ではまだその重要性は明らかにならない。続編に期待である。
脚本は、現在13巻まで出ている原作をじつに上手に抽出しまとめたもの。未完の原作をどこまで映画化するかについても、なかなかうまい落としどころをみつけたといえる。
原作との比較話が中心になってしまったが、この映画は原作について何もしらない人にとっても「女同士の青春友情ドラマ」として十二分に楽しめる出来映えになっている。撮影に奇をてらわず、ベーシックな演出のみで作り上げた点も高く評価したい。中身が優れた物語は、よけいな装飾など不要ということだ。
まとめとして、『ナナ』は若者向け日本映画としては出色の出来映えである。ぜひとも映画館に足を運んでほしいし、その価値がある一本といえるだろう。原作を好む人は相当熱狂的な人が多いらしいが、ここまで上手に映画化するケースはあまりない。多少不満があったとしても、ここまでやってくれた映画スタッフに文句を言うのはあまりに酷というものだ。私としては、漫画の映画化としては、トップクラスの成功例ということで、ファイナルアンサーとしておきたい。