『奥さまは魔女』45点(100点満点中)

奥さまは魔女、である必要があまり感じられない

かつての同名人気TVドラマのリメイク。主演はトップ女優ニコール・キッドマン、共演はコメディアンのウィル・フェレル。

落ち目のハリウッド俳優(ウィル・フェレル)のもとに、TVドラマ「奥さまは魔女」のリメイク企画が舞い込んできた。この作品で復活をたくらむ彼は、自分が演じるダーリン役を引き立てるために、言いなりになる新人女優を探していた。そこに、イメージぴったりの女性(ニコール・キッドマン)が現れ、彼は喜んで抜擢する。ところが彼女は、なんと本物の魔女であった……。

このあらすじを見てわかるとおり、リメイクとはいってもオリジナルとはまったく異なる筋書きである。劇中作としてオリジナルのリメイクを作るというメインストーリーを軸に、魔女と一般人の男の恋愛というシリーズの基本設定を踏襲するとは、よく思いついたなあと感心する。

気になる中身はというと、見終わった後に何にも残らない典型的お気楽アメリカ映画だ。どこを切っても出てくるのは「平均的ロマコメ」という印象ばかり。毒もひねりも何にもない。長年のファンがたくさん存在する作品のリメイクでこういう量産家電製品みたいな映画を作ってしまうアメリカ人の無神経さには参る。きっとたくさんの熱狂的ファンの恨みを買うことであろう。

映画を見ると、主演の魔女役のニコールの可愛らしさがまず目に入る。はっきりとした色合いの洋服をたくさん披露する彼女は、人間界に慣れていない前半の天然少女ぶりと、後半の恋する女ぶり、どちらもじつに魅力的だ。普段は難解な文芸ものにも意欲的に出演する演技派の彼女だが、ほそっこい長身は往年のオードリー・ヘップバーンを彷彿とさせるチャーミングさで、こんな映画のヒロインにもぴったり。女優としての幅広い才能を感じさせる。

ダーリンを演じる役者は、さすがに本職だけあってコメディシーンの表現力は見事なもので、自然に笑わせてくれる。なお、試写室では男より女の観客にウケていたと報告しておこう。

話自体はロマコメらしくシンプルで、傲慢な男が自分を叱責してくれた女に恋をするが、やがてその子が魔女とわかって別れてしまう、でもそのうち反省して最後はチュッチュッチュ、というのんきなものである。アメリカの恋愛映画らしく衣装やセットはもちろん、最初にかかる曲など、物語を彩る音楽には力を入れており、女性客をうっとりさせる仕掛けは十分だ。

とはいえ、あまりに健全すぎる内容はカップル客の話のネタにすらなりそうもなく、私としてもいったい誰にすすめればいいのかさっぱりわからない。お気楽かつオリジナルをはずれた内容を見てみたいという方がいたら、ご覧になってみては、といったところか。



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