『容疑者 室井慎次』40点(100点満点中)
シリーズファン以外にはすすめにくい
フジテレビの優良コンテンツ『踊る大捜査線』シリーズの人気キャラクター、室井慎次を主人公にしたスピンオフ作品。スピンオフとしては『交渉人 真下正義』に続く2作目となる。本作では、このシリーズの脚本を手がけてきた君塚良一がシリーズ初監督を務めている。
警視庁・室井管理官(柳葉敏郎)は、指揮した殺人事件の捜査で不祥事がおこり、その責任をとらされ逮捕されてしまう。彼を弁護する新人弁護士(田中麗奈)が奮闘するも、相手側弁護士(八嶋智人)の露骨な追い込みにより、室井側は窮地に立たされる。
シリーズの中でもずいぶんと地味なストーリーを持つ一本である。筋書きが地味だから、というわけでもないだろうが、その分演出はいつにもまして演劇的で、けれん味たっぷりなものになっている。出てくる弁護士や警察官は誰一人そうは思えぬ風貌だし、警察署の内装もしかり。マジメに働く労働者たちと薄汚い権力側の対立という極端な構図も一貫している。これはもはや、警察を題材にしたファンタジー映画とでもいうべきレベルに達している。
とはいえ、そこまでやってもやはり食い足りない印象は否めない。柳葉敏郎の演じるキャラクターは主人公になるだけの存在感と魅力にあふれているが、それを十分生かした話でははなかったなと感じる。
誰が見ても楽しめるエンタテイメントに仕上げた「交渉人 真下正義」と比べると、シリーズのファン以外の一般客に対するアピールは低い。実際、こちらはそういうお客さんにはすすめにくい。あまりにとっぴな内容だし、リアリティははなから無視しており、演出もやりすぎであるからだ。『踊る〜』とはこういうモノだとわかっている人でなければドン引き間違いない。
というわけで、結果的には今一歩、という評価である。個人的にはポップなBGMに乗って軽快に進行するドラマは退屈せずに見ることができたが、総合的に判断するとこんなところだ。