『ふたりの5つの分かれ路』40点(100点満点中)

あるカップルの出会いから別れを時間軸を逆に描いたドラマ

フランスの若手注目監督フランソワ・オゾン(「8人の女たち」「スイミング・プール」など)の最新作。

主人公は30代のカップル、マリオンとジル。二人は離婚手続きを終えると、まるで「最後の記念」とばかりに激しいセックスをする。妻だったマリオンに対し、いまだ未練があるかのように見えるジルはコトの後、「やり直せないか?」と聞くが、彼女は答えることなく去っていく。そして時間は遡り、まだ結婚生活を過ごしていたころのエピソードがはじまる。

二人のカップルの出会いから別れまでを描いた5つのエピソードを、時間軸を逆に並べた恋愛ドラマ。ストーリーに大きな起伏はなく、淡々と二人の経験した出来事が描かれる。一風変わった構成や、各エピソードのつなぎとしてかかる音楽の選曲センスに、この監督らしい個性を見ることができる。

時間軸を逆にすることで、「この二人が別れた原因はなんだろう」という興味を観客は最初から持ちつづけ、その謎は徐々に解けていくが、謎解きの快感に重点を置いた様子はまったく見えず、明快に正解を提示する事もない。

エピソードの中における各登場人物の心の動きというより、むしろエピソード間のそれに思いを寄せてしまうよう演出されている。見えない部分に観客の視点を誘導するとは、なかなか技巧に凝っている。

しかし注意してほしいのは、この映画は前作「スイミングプール」のように、万人が楽しめるタイプの作風ではないということ。5つのエピソードは観客の興味をひきつける力に乏しく、ラスト(出会いのころ)まで見たところで、時間を逆行させる必然性やその演出効果を感じる事は困難だ。見終わったところで、だから何なの?で終わる方多数であろう。この監督の作品が好きで映画館に向かう方ばかりだとは思うが、私は今回の新作はあまり積極的にすすめない。



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