『チーム★アメリカ ワールドポリス』75点(100点満点中)

この上ない不謹慎さと意外なド迫力映像のあわせ技

過激でブラックなアニメシリーズ『サウスパーク』で知られるトレイ・パーカーとマット・ストーンによる、マリオネット(操り人形)アクション大作。

テロを根絶するため、国際警備組織“チーム・アメリカ”が結成された。彼らはハリウッドを拠点とし、強力な武器と車両で世界中のテロリストを虐殺、いや退治していた。ある日彼らは独裁者が大量破壊兵器を取引しようとしている情報をキャッチ、おとり捜査のため俳優のゲイリーをスカウトすることにきめた。

人形劇である。それも糸であやつるマリオネット。CGなどのこじゃれた最新技術は使わない。ところが、えらく精巧なセットと本格的な音響効果、『マトリックス』シリーズや『スパイダーマン2』で知られる撮影監督らの力によって、とんでもない迫力のアクション映画に仕上がっている。一本のアクション作品として、他の実写ハリウッド娯楽大作と比べて見ても、十二分に楽しめるという凄い作品だ。

よりにもよって操り人形でアクション大作を作ってしまうとは、なかなか見事なアイデアだ。これはハリウッドで一番儲かっている大物プロデューサー、ジェリー・ブラッカイマーらをおちょくる意味(彼は高予算の話題作を製作することで知られる)があるらしいが、よく考えてみれば『チーム★アメリカ』も数十億円という莫大な製作費をかけている点は同じなので、あまり皮肉になっていない気もする。

操り人形は、重要なシーンでは細部までちゃんと“演技”をしており、その操作の巧みさには舌を巻く。しかし、合間の移動場面などでは明らかにわざととしか思えぬテキトーな動かしぶりで、その落差に笑わせられる。

さて、そんな楽しい『チーム・アメリカ ワールドポリス』だが、ただのゴージャス人形劇というわけではない。いかにもこの製作陣らしいパロディや過激な笑いなどとんでもない内容をもっており、こちらが真の見所である。

詳しくはぜひ直接ご覧になってほしいが、たとえば金正日や各有名ハリウッドスターなどをはじめとする実名丸出しの多数の登場人物と、その残酷きわまりない死に様(人形なのに相当気持ち悪いグロ系描写アリ)、長時間ゲロなど下品極まりないシモネタの数々、映画界や政治、市民運動などを徹底的にバカにした問題描写、そして人形同士の無修正セックスシーンなど、教育に悪いものの詰め合わせである。当然、日本でも18歳未満入場禁止のR指定がついている。

ただ、これらが実に小気味よく感じられるのは、作り手になんら政治的意図が感じられず、たんなるおふざけ、バカ騒ぎのレベルですべてが繰り広げられているからだ。そんなどうしようもないものに大金をかけて本気で作っている、その行為が面白いのである。

この作品の中では、ブッシュ大統領や金正日はもちろん、左翼映画監督の星、マイケル・ムーアまでもがバカにされまくり、木っ端微塵である。バカにする相手は大物や有名人ばかりだから、逆にまったく怖くないのだろう。とにかくいいたい放題、やりたい放題で、その不謹慎さは文句なしの最上級だ。中には大きくはずしたり、あまり笑えない部分もあるが、全体を通して実に痛快で見ごたえがある。これぞ最高のバカ映画だ。

『チーム★アメリカ ワールドポリス』は、既存の映画に飽きた人々や、ばかばかしいギャグ、不謹慎なギャグを笑い飛ばせるタイプの人に絶対に見てほしい傑作だ。こういう映画はパート2を作るととたんに陳腐化しそうだから、まさに一回限りのお楽しみだ。今週はこの映画から皆さんの候補に入れてほしいと私は思う。



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