超映画批評『0:34 レイジ 34 フン』70点(100点満点中)

日常的な舞台で繰り広げられる恐怖演出に腰が抜ける

地下鉄を舞台にしたイギリス製現代ホラー。マイナーな作品だが、舞台設定と恐怖演出がうまく、相当恐ろしい一本だ。

舞台はイギリスのロンドン。パーティーを抜け出したヒロイン(フランカ・ポテンテ)は、地下鉄の駅にやってきた。ところが彼女は、思わずベンチで居眠りをして終電を逃してしまう。あきらめて外にでようとするが、かたく閉ざされた入り口をみて自分が閉じ込められてしまったことを知る。だがそこへ、なぜか一本の電車がやってくる。彼女は不思議に思いながらも乗り込んでしまうのだが……。

ガチで怖いホラー映画である。特にこの映画の前半の恐ろしさといったらない。まぶしいほど明るい地下鉄駅構内と、光の届かないトンネル内の落差。もしくは普段、人にあふれる駅内と、終電後、駅員すらいなくなってしまった無人の構内の落差。都市に生きるものにとって、あたりまえにあるものがなくなった時の恐怖は半端ではない。怨霊だ幽霊だといったものより、実感できる怖さというものが一番怖い。

この点を知り尽くしたかのように、これでもかと恐怖を煽る演出が見事だ。現実的な舞台で非現実的な物語が展開するので、最後まで興味を失わず見ることができる。展開が早く、テンポがいい点も見逃せない。日本でこれをやったら面白いだろうと思わせる。完璧な日本の鉄道管理の手を離れるうまい設定さえ見つかれば、相当怖い話になるはずだ。

とはいえ、いくら海外の地下鉄だってこんな真相はありえまい。そうした点でリアリティは薄いのだが、そこにはあまり目くじらを立てないことだ。それを補って余りあるほど怖がらせてくれる。ホラー映画としてはこれで十分だ。

普段利用している地下鉄の窓の外、あの闇の中に恐るべき恐怖が潜んでいる。そんな感覚にさせてくれる佳作といえる『0:34 レイジ 34 フン』を、今週のオススメとしておきたい。



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