『オープン・ウォーター』85点(100点満点中)
トラウマ確実な恐るべき怖さ、勇気ある人のみ見ること
低予算で作られた海洋恐怖映画。総予算は1500万円以下、上映時間はたったの79分間だが、そこにつめこまれたエンタテイメントはその100倍の製作費の映画にも劣っていない。
ストーリーは単純明快、休暇でスキューバダイビングに出かけた若いカップルが、たっぷり楽しんで海面に浮上したところ、そこにいるはずのボートがいないという悲劇である。ツアー客の人数を数え間違えたボートが、彼らを置き去りにして帰ってしまったのだ。さあさあ大変ここは海のど真ん中、しかも悪いことにその海域は有名なサメの生息地でもあるのだった。ありゃー。
そこから先はただただ海に浮かぶ二人の会話劇。次から次へと困難と不安と恐怖が観客と二人を襲い、落ち着くひまはまったくない。上映時間が79分間なのは、それ以上この緊張感に誰も絶えられないからにほかならない。
ところでこの映画の一般試写会は、品川のプリンスホテルの温水プール内で行われるそうである。そこに観客のカップルたちが水着で入り、真っ暗な中、スクリーンに映るこの映画を見るのだそうである。興味本位でそんな企画に参加したカップルたちを、私は心から気の毒に思う。気の弱い女の子などはきっと一生のトラウマになる事であろう。主催者も罪なことをするものである。
そういえば私がテレビ番組で競演している大高未貴氏という元ミス日本の美人ジャーナリストがいるが、彼女はスキューバが趣味だというので、いたずら心でこいつを見せたところ、あまりに怖くて最悪だったと恨み言をいっていた。このように、スキューバが趣味の方はもう二度ともぐれなくなる恐れがあるので、要注意であると警告しておく。ちなみに彼女は、この映画のカップルと似たような経験があるといっていた。どういう経験じゃ!
さて、この映画のすごい所はあまりに低予算だったために、本当に海上で、本当のサメと撮影したという点である。役者は鎖かたびらをウェットスーツの下に着込み、一応調教されたサメくんたち(大量)とともに襲われるシーンを撮影した。スタントマンの吹き替えなんぞも一切なしである。CGも一切なし。覆われるときの恐怖の表情はたぶん本物である。
大体からして、サメなどというものは人間の都合なんぞが通じる生き物ではあるまい。いくら事前に調教師が言い聞かせていたって、あいつら食べたくなったらペロリとヒトを食べてしまうに決まっている。そして、暴走したサメを止めることなど、調教師だってできやしまい。まったくもってとんでもない映画である。
当初は悪態をつきあって気楽だった二人が、やがて一切の助けもこない状況に絶望し、飢えとサメへの恐怖で壊れていく姿は、この上ないリアリティにあふれている。会話の構成が実にうまく、誰もが共感できる内容になっている。果たしてあなたが同じ状況になったらどうするか? いや、そもそも「何ができるのか?」。
そんな、究極のシチュエーションホラーである『オープン・ウォーター』。こいつは絶対に見逃せない凄まじい恐怖体験だ。勇気のある方は、ぜひぜひお出かけになっていただきたい。