『ダニー・ザ・ドッグ』20点(100点満点中)

稀代の珍作登場

アクションスターのジェット・リーと、演技派のモーガン・フリーマンが異色の競演をはたしたアクション映画。製作、脚本にはリュック・ベッソン(「レオン」「ジャンヌ・ダルク」など)が名前を連ねる。

内容をかいつまんで話すと、主人公のダニー(J・リー)は5歳のとき悪徳高利貸しのボスに拾われ、犬同様に首輪でつながれ育てられた男。小さいころから殺し屋としての格闘術を仕込まれ、ろくに言葉すらしゃべれないもののボスの命令には忠実、ものすごい戦闘力で組織のトラブルを解決していた。そんな彼がひょんな事から盲目のピアノ調律師(M・フリーマン)と出会い、音楽への興味と本当の愛に目覚めていく。

一言でいえば、「なんだこりゃ」としかいいようのないトンデモ作品。よくこんな映画をまじめに作ったものだと深く感心する。バカすぎる設定、非リアリティのきわみのような話をあの名優フリーマンがクソマジメに演じる。これには猛烈な違和感を感じざるを得ない。久々にパワーのあるダメ映画を見た思いだ。

なにしろ想像してみてほしい、ジェットリーが首輪をする姿を。本当にイヌなのである。イヌの演技をしているのである。ああ、なんてカッコ悪いんだジェット・リー。これでは100年の恋も冷めてしまうではないか。

しかし、天下の彼にそこまでさせた「イヌ設定」すら、途中からあっさり捨て去る製作側のいいかげんさ。具体的にいうと、終始無言だったダニーがピアニストに話し掛けられ、何度か会話したとたん、「ハイ、この設定ここでおしまいね」といわんばかりに、そこから先はフツーにコミュニケーションをとってしまうのだ。一気に普通の人と化すジェットリー。なんなんだこのテキトーさ。

だいたい、モーガン・フリーマン一家も普通じゃない。いったいどこの世の中に、血だらけの殺し屋を自宅に招き、手厚く介抱して、17歳のうら若き無防備な美少女がいるというのにそのまま同居させてしまう人間がいるのだ。お人よしにもほどがあるではないか。このすさまじいまでのご都合主義、私は久々に惚れた。

しかし、こんなバカ映画なのに、これが意外といいのである。ジェットリーがはじめて家族の暖かさを知り、彼らを守るために悲壮な戦いに挑む場面など、ゾクゾクするほど盛り上がるし、ラストのある表情など、思わず感動の涙を押さえるのに必死であった。こんな映画で感動するなんて! 大丈夫か、自分?

アクションもすばらしい。1メートル幅の通路でのクンフーや、ワイヤーを感じさせない自然な動きなど、非常に高度な技術を感じさせる。アクションファンにとってもこれは絶対に満足がいくレベルだ。

というわけで、ダメダメといいつつ実は影のオススメナンバー1だった『ダニー・ザ・ドッグ』。点数だけで判断したり、オススメだけを読んでいると、本当の意味での注目作を見逃してしまうという、じつに天邪鬼な超映画批評なのでした。



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