『50回目のファースト・キス』70点(100点満点中)
ネタバレ食らう前に早く見に行きましょう
日本ではさほどでもないが、アメリカでは文句なしのトップスター、アダム・サンドラー主演のロマンティックコメディ。物語のアイデアの核となっている特殊な役柄を演じるヒロインは、ドリュー・バリモア(「チャーリーズエンジェル」ほか)。
ハワイで働くプレイボーイの獣医(A・サンドラー)は、ある朝カフェで魅力的な女の子(D・バリモア)を見かける。いつものゲーム感覚で見事に彼女の気を引くことに成功し、楽しい時間を過ごした彼は、いつしか彼女に特別な魅力を感じていた。翌朝も約束どおりカフェで待ち合わせた彼だったが、一夜明けた彼女は別人のように冷たい態度をとるのだった。
はてさて、どうして彼女は一変してしまったのか。その日彼は、彼女に隠されたあまりにも悲しい事実を知るのだった。
これはいける。笑えてなける、さわやかなラブコメディだ。主人公は根が純粋で憎めない、アダム・サンドラーが得意とするキャラクター。彼を取り巻く脇役たちの人物造形もしっかりしており、非常に魅力がある。ギャグも見事にヒットするから、見ていてとても楽しい。
ハワイという場所柄もいい。これは、季節がわかりにくい場所というストーリー上の必要条件のために選ばれたわけだが、深刻になりがちな話に救いをもたらし、見ているものにわけもわからず希望をもたらす。こうしたファンタジーをやるにはぴったりの場所といえる。
ロマコメというものは、一年におそらく2万本くらいは作られるありふれたジャンルであるために、その差別化をどこで行うかが非常に重要になる。そして、『50回目のファースト・キス』は、その2万本の中でも間違いなく上位数本に入るほど個性的なアイデアを持っている。そんなアイデア(ヒロイン)と、本物の愛を知ったプレイボーイのとても感動的かつ楽しい恋のお話である。
この恋の障害を埋めるために、主人公が行う試行錯誤が楽しい。サンドラーのキャラクターによるところが大きいが、余計な深刻さがなく、楽しそうにさえ見えるあたりが絶妙だ。
主人公が挫折する過程にいまいち説得力がないのが問題だが、それでもこの映画は面白い。結末は感動的かつご都合主義に行き過ぎないギリギリのところに着地しているのでそれもいい。
ところで、このレビューではあえてメインアイデアについて一切ネタばらしをしていないが、それは私自身、何も知らずにこの映画を見て非常に満足したからに他ならない。なにしろサンドラー主演のロマコメと聞き、どうせ下らんお手軽映画だろうとたかをくくっていたこともあったし、上映ぎりぎりにソニーピクチャーズの試写室にかけこんだために、それ以上は事前に何も知らなかった幸運もあった。
つまり、私はみなさんにもこの映画を100%楽しんでもらいたいので、ネタバレに気をつけてこれを書いている。しかし、恐らくここ以外のメディアでは、平気でネタバレしているに違いない。ネタをばらさずに魅力を伝えるのは困難だし、とても面倒くさいものというのはわかる。宣伝側としては、売りどころをアピールしたくなる気持ちもあるだろう。しかし、いずれも観客の立場に立った態度ではない。
よって、運良くこのサイトで初めて『50回目のファースト・キス』を知った方は、ほかの映画紹介など読まずにさっさと映画館に出かけてくることをお勧めする。
そういえば『ミリオンダラーベイビー』のときも、「超映画批評を読んで興味が出たので、ついでにあるテレビの映画紹介も見てみたら、重大なネタバレにつながるある単語を言っていたのであわてて消した」という声をいただいた。言わんこっちゃない、あの映画の興味をぶち壊すには、漢字3文字の単語ひとつがあれば十分なのである。本来、映画紹介をする者は軽軽しくそれを口にしちゃならんのだ。
悪いことは言わないから、ああいう映画(『50回目のファースト・キス』も)はここだけ読んでさっさと本編を見てから、ほかのメディアでの紹介を楽しんだほうがよい。テレビやラジオ、ほかの批評ページの多くは、このサイトのように「読んでから見たほうが楽しめる映画紹介」なんぞを目指して作っているわけじゃないのだ。
「50回目のファースト・キス」はカップルで見るのもいい。こうした映画を二人で見ることができる恋人たちは幸運だ。私ももし、やさしい性格の女の子と二人で映画を見ることになったら、今週は迷わずこれを選ぶ。絶対にそれで間違いはない。