『戦国自衛隊1549』70点(100点満点中)
オリジナルとは別ものとして楽しむべき
79年に千葉真一主演で映画化された、半村良原作『戦国自衛隊』をもとに、ストーリーを新たにした最新作。原作は最近人気の福井晴敏(「終戦のローレライ」ほか)、陸上自衛隊全面協力の軍事SFアクション大作だ。
かつて陸自の特殊部隊で実力トップだった主人公(江口洋介)は、今では居酒屋の店長としてのんびり暮らしていたが、突然現れた隊員らにより半ば強引に召集される。神崎怜2尉(鈴木京香)らの説明によると、先日予期せぬ事故で460年前にタイムスリップしてしまった中隊が、歴史に干渉し始めたため、現代の世界が消えつつあるという。主人公はかつて直属の上司だったその中隊長が作成した作戦シミュレーションを、ただ一人クリアしていた実績を買われ、戦国時代の彼らを止める新たな作戦メンバーに選ばれていたのだった。
前作とのもっとも大きな違いは、タイムスリップした主人公の自衛隊が戦う相手が、「現地の武士」ではなく「暴走した別の自衛隊」であるという点だろう。圧倒的な火力を持つ近代兵器と、刀や槍の物量軍団との戦いの構図は捨てがたいが、本作ではあえてそのメインアイデアを捨て、自衛隊同士のド迫力バトルの魅力を取った。
今回は陸自の全面協力をもらっているから、戦車もヘリも本物がつかえる。おまけに演習場での撮影ということで、火薬も安心して炸裂させられる。その上この映画の監督は手塚昌明、平成ゴジラシリーズで何度も自衛隊と特撮の組み合わせで撮影した経験がある人で、こうした兵器群をどう見せればカッコいいか熟知している。
そこに最新のCG技術がくわわるので、実際の製作費(15億円)や撮影に参加した車両数以上にスケール感が出ている。戦闘場面に限らず、画面いっぱいにものすごい迫力の映像が広がっている。たんに軍隊同士のドンパチを見たい人にはたまらない出来映えだ。
こうしたすさまじい映像を得るために犠牲になったのがストーリー、ドラマ面。まず主演の二人には現実の自衛官らしさが薄く、キャラクターとしてもイマイチ血が通っていない。外見だけは美男美女だから、なんだか自衛官募集ポスターのモデルのようだ。
さらに、作り手側が政治的な立場をはっきりさせていないものだから、物語も中途半端で「大事な人を守るために戦う」なんていう、どう見ても後付けのいいかげんなテーマさえも引き立っていない。まあ、陸自の協力を仰ぐからには政治的に無難な内容になるのはやむをえないことで、そうした意味では毒気のない福井晴敏の原作で作ったのは正解かもしれない。
とはいえ、同じ軍事もの大作「ローレライ」にあるような決定的な破綻が見られなかったのは嬉しいところ。同じファンタジー要素のある作品とはいえ、『戦国自衛隊1549』はあの映画のようなリアリティ無視のいいかげんなモノではないから、安心して大人も楽しめる。
この点に関しては、当日同行した政治ジャーナリストの西村幸祐氏と私は完全に意見が一致している。ちなみに、鋭い時事問題への考察で知られる彼も『戦国自衛隊1549』について自身のブログで批評しているので、興味のある方はぜひご一読を。
そろそろまとめると、新『戦国自衛隊』は全体的にうす味で、強いテーマ性やオリジナリティ、骨太な物語は期待できない。しかし、それを補って余りあるものすごい戦闘スペクタクルがあるから、気楽な娯楽映画としてみるなら十二分に楽しめる。邦画にこのレベルのエンタテイメントがコンスタントに出てくるようになれば、映画を楽しむファンも続々と増えてくるに違いない。