『フォーガットン』75点(100点満点中)
見た人の何割かは確実に拒否するが、それもやむをえない
仰天結末型のアイデア映画。主演は演技派で知られるジュリアン・ムーア。この配役もまた、一種の引っ掛けになっているような気がしてならない。さらにいえば、CMや各種媒体の無難な映画紹介といったパブリシティ全般でのイメージ作りまでもが、壮大なミスディレクションになっているという映画だ。
逆にいえば、それらをみてイメージするものを期待してみに行った観客の何割か(恐らくかなり多数)が、見終わった後、期待を裏切られたといってこの作品を拒否するであろう。こういうジャンルを嫌いな人は非常に多く、かつて似たような某作品の時にまきおこった、文字通り賛否両論の騒ぎを見ると、それは明らかだ。
しかしながら、ツボにはまった人にとっては相当満足度の高い作品になることも間違いない。「見る前に読む」ことが身上の超映画批評においては、書く側としても非常に難度の高いレビューになると思うが、とりあえずチャレンジしてみる。
主人公は1年ほど前に最愛の一人息子を飛行機事故で亡くし、いまだ立ち直れない女性(J・ムーア)。ある日、彼女は家族写真から息子の姿だけが消えているのを見て驚愕する。そんな妻に夫や精神科医は、「息子なんて最初からいなかった」と告げるのだが……。
非常に興味深く、サスペンスフルな導入部を持つドラマだ。役者はもちろん、音楽もカメラも一流の技というやつで、重厚でスケール感がある。それに加えストーリーじたいが面白く、とにかく先が気になって仕方がない。
後半には視覚面におけるショッキングな要素も満載で、いったいどういう結末になるのか想像もつかないぶっ飛んだ展開となる。J・ムーアの見事な演技力のおかげで、前半のドラマに強く感情移入している分、観客はかなりの衝撃を食らうだろう。
どんでん返しといえば聞こえはいいが、この映画の場合、そんな言葉ですましていいレベルの問題ではない。こういう手法を使われると、ミステリ好きがフェアとかアンフェアとか、ちまちまと議論する事すら意味がなくなってしまう。なにしろその大前提をぶち壊すほどのとんでもない展開なのだから。
そんなわけで、本作を楽しめるかどうかは、あなたが寛容な性格であるかどうかがまず問われる。なんであろうとまずは受け入れて咀嚼する、といった心の余裕がない方は、やめておいたほうがよかろう。私はこういう挑戦的な手法の映画は好きだが、気軽に他人にはすすめない。だが後半のどんでん返しを受け入れられる人ならば、本作のテーマである母子の絆の強さに涙して、幸せ気分で帰ることができるだろう。