『オペレッタ狸御殿』20点(100点満点中)
オダギリ&ツィイーのファンにとっては地雷
世界的に人気の出てきたアジア女優チャン・ツィイーと、日本のオダギリジョーが共演する異色のオペレッタ(ハッピーエンド版オペラ)。
強欲な城主(平幹二朗)は、「やがて息子の美しさがあなたを上回る」との女予言者(由紀さおり)の言葉に焦り、息子(オダギリ)を秘境の山に捨てることを画策する。ところが息子はその山で、世にも美しい姫(チャン・ツィイー)と出会うことになる。
全編サイケデリックといってもよさそうな無秩序な色彩感覚に彩られ、ツィイー演じる狸の姫様やオダギリジョー、パパイヤ鈴木ら個性的な顔ぶれのキャストが歌い、踊りまくる。妙ちくりんな合成映像、舞台劇のような安っぽいセット、無国籍感覚の着物のデザインなどがごた混ぜになり、監督の実験的映像遊びとでもいえそうな不思議映像が延々と続く。
この、世にも不思議な怪作を作り上げたのはキャリア50年、邦画界の大御所鈴木清順監督だ。齢80を超えながら、これほどパワーある作品を作り上げた事に、まずは敬意を表したい。ちなみに彼は、1940から50年代ごろに流行した『狸御殿』シリーズをみて、いつか自分も作りたいと思いつづけ、今回の製作に至ったそうである。
その熱意、意欲は確かに感じられるが、かといってこれを人にすすめられるかと言われれば、とてもじゃないが私には無理だ。こいつはいくらなんでもアクが強すぎる。
作った側の人たちは「デートムービー」だというが、私が思うに『オペレッタ狸御殿』は若い人にとっては地雷だ。とくに、オダギリもしくはツィイー目当てで見に行くような人にとってはかなり危険な一本といえる。
伝統あるシリーズとはいえ、着物を着た狸が歌って踊るだけという、このセンスがすでに時代に合っているとは思えない。かといって、シリーズファンの中高年のお客さんにとっても、このデジタルっぽさは受け入れにくいのではないか。ごく一部の、この映画のもつ雰囲気にピンとくる人々にとってはいいだろうが、このサイトを読んでくれている多くのライトな映画ファンにとっては厳しかろう。
鈴木監督を敬愛するチャン・ツィイーは、大喜びで本作に出演したといわれ、日本語の歌や台詞も意欲的にこなしている。これはどうでもいい話だが、彼女が歌う「夢の中の〜、王子様が〜」という歌が、途中まで私には「夢の中の〜、オジサマが〜」と聞こえており、なんて変な歌なんだろうと思っていた。変なのは私の頭の方であった。あるいはツィイーの奇妙な日本語か。
あと映像といえば、この映画には美空ひばりがデジタル合成で出演する。これは、過去映像の合成ではなく、彼女の姿と歌声を、すべて一からデジタルで作り上げたという、恐るべき試みである。短いシーンではあるがこいつは本当にすごい。この技術が進歩すると、実写映画に50年前の俳優が平然と出演する姿が見られることになるのだろうか。
ともあれ、『オペレッタ狸御殿』はあらゆる意味でインパクトのある作品である。普通の人々には決しておすすめはしないが、これを読んで興味のわいた方がいたら、ぜひ見た感想を教えてほしいと思う。