『バタフライ・エフェクト』99点(100点満点中)

運命に挑戦した男の切ないラブストーリー

アシュトン・カッチャー主演のタイムスリップ系サスペンス。アシュトン・カッチャーは米国ではTVのバラエティ番組等に出演し、アイドル的人気を博す若手俳優だが、日本ではそれほど知名度が高くない。『バタフライ・エフェクト』は非常にシリアスで感動的な物語であるのだが、多くの日本人にとっては主人公役の彼に対する先入観がないであろうから、よりニュートラルに本作を楽しめると思う。そうした点まで含めて判断した高得点である。

主人公(A・カッチャー)は少年時代、記憶が時折ブラックアウトする症状に悩まされていた。成人後はすっかりよくなったかに見えたが、ある日当時の日記を読み返した彼は、失った記憶を突然取り戻した。しかもその恐るべき記憶を、彼はあとから変更する事ができるのだった。

さて、現在もこの主人公は、幼馴染の少女に恋をしている。ところがその女の子とは、よくわからないうちに疎遠になってしまっていた。なぜ理由がわからないかというと、「何か大変なことがあったらしい」肝心な部分の記憶が失われているからだ。

その虫食い部分の記憶こそが、まさに驚愕の事実というやつで、主人公が覚えていない時間帯にトンデモない事がおきていた事がわかる。ああ、こうなると知ってりゃあんな事するはずないのに! 変えたい、過去を変えたい! ……誰もがそう思うだろう。

そして、この主人公にはそれを行う能力があった。失われた記憶の瞬間に向け一種のタイムスリップを行い、史実通りのA選択ではなく、B選択をしてやりなおす。そういうことができる能力があったのだ。

「そうか、よかったね、じゃあハッピーエンドだね」と思うだろうか。それはあまりにお気楽な発想というものだ。この映画のタイトルは『バタフライ・エフェクト』。蝶のはばたきが地球の裏側では竜巻を引き起こすという、カオス理論を象徴する言葉だ。つまり、「主人公が良かれと思って変えた過去のちょっとした選択が、とんでもない未来を巻き起こす」のである。

彼は、愛する彼女の人生を救うために過去に戻って「誤り」を修正したはずだった。しかし時間の法則はあまりに残酷で、彼女と彼の人生は、主人公がまったく予想もしなかった方向に転落してゆく。そして、そのたびに彼は何度も過去に戻り、自らの人生をやり直すのだ。たとえ何度地獄を見ることになろうとも……。これは愛する女性のため、気まぐれで残酷な「運命」に挑みつづけた、ひとりの男の物語だ。

次々明らかになる恐るべき記憶、ミスを修正したはずなのに全く望みどおりにならない未来。果たしてどこが真の分岐点だったのか? 何度もやり直す彼の人生に、やがて訪れる破滅の予感……。

すこぶるエキサイティングで知的なスリラーだ。全編まったく緊張感が途切れず、あたかもクライマックスの連続のよう。とてつもなく残酷な展開でありながら、この上なく感動的な愛の物語でもある。

ジグソーパズルのように綿密に組み立てられた脚本は、見終わった後、観客の頭の中のすべての謎が氷解し、心震わす感動を与える良質なものだ。今年ここまで紹介してきたすべての映画の中で、『バタフライ・エフェクト』こそナンバー1、ベストであると断言しよう。ほとんど完璧といっていい見事な映画だ。

ではマイナス1点は何か? 実はこの映画、もとはエンディングがちょいとこの公開バージョンとは違っていたのだ。そのエンディングの方がディレクターズカット版ということだから、恐らく監督が最初に意図したものであったのだろう。私はそれを直接見てはいないが、宣伝会社の人懐っこいお姉ちゃんに聞いたところによると、確かにそういう終わり方もあるね、と思わせる結末であった。

しかし正直なところ、結末だけそうしてしまうと、明らかにストーリーの終盤に矛盾が生じる。私はこの公開版のエンディングのほうが整合性の面でずっと良いと思う。しかし、これがまた憎たらしいところで、この公開版のエンディングだと最も大きな伏線に小さな矛盾、というか釈然としない要素が残ってしまうのである。それも無理はない。なぜならその最大の伏線こそ、ディレクターズカット版の結末に合わせて作られた伏線であるからだ。

まあ、サラリと見た観客は恐らく気づかない程度の事だとは思うが、ここまでパーフェクトにくみ上げられていただけに、唯一残されたキズのようでどうしても惜しい。そこでマイナス1点というわけだ。

ともあれ、私は強く『バタフライ・エフェクト』をオススメする。日本では、ほうっておくとすぐに公開終了となりかねないマイナーな作品だが、こういう映画を紹介できるからこそ、このサイトをやっているようなものだ。ぜひ皆さんにも、こういう傑作を見て欲しいと願う。



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