『ライフ・アクアティック』30点(100点満点中)

よほどマニアックなファン以外にはすすめられない

アメリカ新世代監督のホープといわれるウェス・アンダーソン監督(「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」ほか)最新作。

主人公はやや落ち目の映画監督(ビル・マーレイ)で、海洋ドキュメンタリーを専門としている。ところが今回の撮影中、相棒が“ジャガーザメ”なる謎のサメに食われてしまった。彼は敵討ちのため、新作ドキュメンタリーの製作も兼ねてジャガーザメを探そうと決意、いつものメンバーを召集し、海へ出た。

大海原を舞台に、クルーたちと主人公の交流を描いたコメディだ。主人公は家族を省みず趣味ばかりやっているダメ男(別のいい方をすれば少年の心を持ったオヤジ)で、仕事仲間である妻にも見放されている。しかし、そんな彼の周りにはさまざまな人間が集まってくる。かつての恋人が生んだ息子となのる若者、昔から主人公に心酔している部下(ウィレム・デフォー)、妊娠中の女ジャーナリスト(ケイト・ブランシェット)など、一癖もふた癖もある連中ばかりだ。

ろくな計画性もなく、自分の目的のために突っ走るわがままな主人公だから、トラブルがしょっちゅう起きる。そのたび乗組員らとモメまくったりするが、なんやかやいって彼らはついてくる。要するにこれは、乗組員=擬似家族を描いた家族映画だ。ラストには、この監督がそうしたものをどう思っているかがよくわかる、感動的な場面が待っている。

この映画の笑いはブラックなものだ。たとえば、足の無い犬を虐待するユダヤ人や、同性愛者をレズという蔑称でよんだり、ゲイを小ばかにする主人公など、きわどい表現が連発する。こうしたギャグの数々は、この監督が表現の自由というものにたいして、果敢に挑戦する気質を持っていることを意味する。

ストーリーはダラダラとしており、それ自体を楽しめるものではない。映像は安っぽいが、よく音楽とマッチしており独特のセンスがある。CGで描かれた奇妙な(実在の魚とはかなり違う)デザインの魚たちも、不思議な魅力を発している。

しかしはっきりいって、この監督のファンを除いて、一般にすすめられる映画ではない。『ライフアクアティック』は、あまり映画を見ない人が見れば、「よくわからん」で終わってしまいかねない作品だ。私にとっても、一度見た限りではどうもピンとこない作品であった。登場人物の人種・民族的な面が理解できればもっとよくわかるのだろうが、そこまで突っ込みたくなるほどの魅力も感じない。どうにも相性が悪いということか。



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