『サラ いつわりの祈り』50点(100点満点中)
少年虐待の描写が残酷かつ衝撃的
J.T.リロイの同名小説を、アーシア・アルジェントが監督、主演で映画化。J.T.リロイという人は、わずか10代で衝撃的な自伝的小説を発表し、ハリウッドスターら著名人から多くの尊敬を受ける天才的な作家として知られている。そして彼の熱狂的ファンの一人でもある監督アーシア・アルジェントは、同時に「トリプルX」のヒロイン役などで知られる女優でもあり、数々のホラー作品で知られるダリオ・アルジェント監督の娘さんだ。
やさしい里親に恵まれ、幸せに暮らしていた主人公の少年(7歳)。ところがある日、見るからにあばずれな母親(A・アルジェント)がやってきて、彼を強引に引き取ってしまう。ドラッグや売春に明け暮れる母親の姿にショックを受けながらも、やがて少年は実母への愛を自覚していく。
この映画の原作は、小説でいうと2作目にあたる。小説の1作目は男娼である主人公の生活が描かれており、2作目でその過去が描かれるという流れになっている。ところが映画版ではその2作目からはじまるので、与えるインパクトの種類が変わってしまっている。
平和で幸せだった少年の暮らしが、ダメ母に引き取られたとたん奈落のそこに急降下する展開はじつにショッキングで、あまりにもひどい。虐待、虐待のオンパレードで、気の弱い人なら見ていられないだろう。
アーシア・アルジェントは元々大変美しい女性だが、この映画では見事にケバくてひどい母親役を演じている。それはもう、見ているだけでムカつくほどだ。彼女が演じている米国でのイタリア系白人は、同じ白人社会の中でも最下層に位置付けられ、おおむね貧乏で被差別者である。そのあたりを念頭においてみれば、この母親がどうしてあんなに卑屈なのか、貧しいのか、ドラッグに溺れるのかといったあたりも理解できるだろう。そして、彼らの実態がじつにリアルに描かれている事もわかるはずだ。
ただしそれでも、どうしてあの母親が子供にあれほどひどい事をするのか、それでも子供をほしがるのか、その理由がはっきりとはわからない。あくまで子供の目から見た真実を淡々と記録したという事なのかもしれないが、正直、すっきりしないものがある。……と思ったら、先日JTリロイは実在しない、物語も全部フィクションだという発表がなされた。さもありなんだ。
原作シリーズの1と2の順番をひっくり返して見るわけだから、この作品だけだと登場人物(母と子)の紹介にとどまっているような印象で、やや不完全燃焼といった印象だ。少なくとも私には、この映画から得るものはあまりなかった。