『ウィンブルドン』50点(100点満点中)
テニスには期待せず、お気軽ロマコメとして見るべき
『スパイダーマン』シリーズで主人公の恋人を演じる若手女優キルスティン・ダンストをヒロインにしたロマンティック・コメディ。主演はイギリスの個性派俳優ポール・ベタニー(「マスター・アンド・コマンダー」の船医役など)。
かつて世界ランキング11位だったベテランテニス選手(P・ベタニー)は、今では119位まで落ち込んでいた。招待選手として参加する今回のウィンブルドン選手権を最後に引退を決意した彼は、ふとしたきっかけで女子テニス界の風雲児、優勝候補の若手選手(K・ダンスト)と出会い、一夜を共にする。
ヒロインの方は、いかにも上り調子で怖いもの知らずといった若手選手で、ベテラン主人公とはただの遊びで寝たつもりだったが、彼は違っていた。しかもそれがきっかけなのか、本業のテニスも絶好調、見事に初戦を勝ち抜いてしまったからさあ大変。鬼コーチでもある彼女の父親の目をすりぬけて、なんとか再びデートに誘おうとするのであるが……という展開。
ポール・ベタニーという俳優は、どの作品でも独特の存在感を示すいわば“アク”の強い役者なので、はたしてこうしたお気楽ロマコメの主人公がつとまるのかと心配したが、それはまったくの杞憂に終わった。上手いやつは何をやらせても上手いのである。実際のウィンブルドンセンターコートで撮影したテニスシーンもなかなかのもので、どこからみてもド素人なキルスティン・ダンストのプレイに比べればかなり見られるレベル。
それにしてもキルスティンの運動神経はひどい。彼女の出るテニスシーンが少ない点が救いではあるが、あれじゃ中川の土手で壁打ちしている高校生の方がよっぽど上手い。
とはいえ、『ウィンブルドン』はスポーツ映画ではないのでその点は許す。そうそう、いい忘れたがこの映画、タイトルや本格的なロケ撮影の逸話などから、スポーツムービーと誤解してしまっては大変なことになる。役者のプレイうんぬんの前に、ストーリーがスポーツ映画としては欠陥だらけで話にならない。これはあくまで「お気楽ラブコメ」である、間違いの無いように。
ロマコメであるから、結末も最初から決まっている。このジャンルでは定評のあるイギリスの製作スタジオによるものであるから、定番の要素はすべて詰まっている。美しいイギリスの風景、魅力的な車、楽しい同性愛者や間抜けな弟、人のいい父母といった人情味あふれる登場人物、少年との心温まる交流……こうした伝統的な喜劇スタイルは、いかにも英国映画らしいものだ。
しかし、ウィンブルドンという雲の上の世界で戦うトップクラスの選手たちを主人公にしながら、そのまわりの妙に庶民的な舞台設定をみると、あまりにも安直という気がしないでもない。各キャラクターがあまりにもソツなく配置され、どうにもその計算ぶりが鼻につく。お気楽なのはいいが、お手軽なつくりはいただけない。
なおヒロインのキルスティン・ダンストは、若い割に演技の上手な役者であるから、テニス場面はともかく恋愛ドラマの面では危なげが無い。えくぼフェチの私としては、この人のお顔をみると、毎回つい点数が甘くなりそうになるが、やはりこの程度のロマコメであれば、平凡、平均的としかいえまい。