『シャル・ウィ・ダンス?』70点(100点満点中)

日本版にかなり忠実だが、肝心な部分にお国柄が現れるのが興味深い

役所広司&草刈民代主演で一大ムーブメントを引き起こした周防正行監督の傑作『Shall We ダンス?』のハリウッド版リメイク作品。こちらの主演はリチャード・ギア&J.LOことジェニファー・ロペスというセレブなお二人。

シカゴで働く弁護士(R・ギア)は、妻と二人の子供に囲まれ幸せに暮らしていたが、同時にどこか物足りなさを感じている。そんなある日、通勤電車から偶然見えたダンス教室の窓辺に佇む美しい女性(J・ロペス)に引かれ、彼は思わず途中下車してしまうのだった。

96年に公開された日本版のヒットは、当時巻き起こっていた中高年のダンスブームを過熱させた。町にはダンスホールのあるお店がたくさん増え、ダンス教室も盛況であった。彼らは伝統的なやり方にこだわらず、自分なりにダンスを楽しむやり方を作り上げていった。石原裕次郎でルンバを踊る国は、世界広しといえど日本だけであろう。

さて、今回のハリウッド版はその周防正行監督版に、台詞やストーリーなどかなり忠実にリメイクしたものだ。アメリカの都市部ではマイカー通勤が普通なのに、あえて主人公に電車通勤をさせているくらいだ(主人公がダンスをはじめたきっかけは車窓から美人のダンス教師をみたからなのだ)。竹中直人が演じた同僚のキャラなども、ほとんど同じように登場するのには驚く。

日本版のファンにとって、リチャード・ギアの主人公にはさほど違和感がないだろう。多少印象が変わるのはヒロインとなるJ.LOの方か。ほっそりとした草刈民代に比べ、マッシブな尻の迫力がすごい。スタイルは抜群だが、日本的な情緒とか、そういうものはあまりない。ダンスはさすがにどちらも上手い。

今回のアメリカ版でよかったのは、音楽と撮影の面だろう。とくに、人物に陰影をつけ、綺麗に浮き上がらせるライティング、滑らかに動くカメラ、ダンスシーンの演出についてはこれはもう米国版に軍配が上がる。見せ場となる大会でのダンス場面もとても美しい。私は日本の小さな大会には何度も行ったことがあるので、日本版におけるあの場面がいかに正確に会場の雰囲気を伝えているかは良くわかるのだが、米国では小さな大会でもあんなにゴージャスなのだろうか。

基本的にはリメイクもオリジナルもまったく同じなので、どちらかのファンは別のほうも楽しめるであろう。ただし、米国版ではエピローグにあたる後日談の部分が長く、決着をしっかり目に見える形で表したいお国柄がよく出ている印象を受ける。個人的にはちょっとくどい気がする。

しかし、それより問題なのはクライマックスのラストダンスの短さだ。『シャル・ウィ・ダンス?』は、何の問題もない幸福な家庭を持った男がダンス教師に憧れてしまうという、爽やかなプラトニックラブの物語であり、この場面はその結末にあたる重要な部分だ。二人がほぼ唯一、互いへの思いやりや愛情、尊敬といった思いをぶつけあう大事な見せ場なのに、あまりにもあっさりとしすぎている。

こんなに素敵な二人の関係も、米国人保守層にとっては不道徳な関係であることに違いはないという事なのか、ようは奥さん側に話の重点を持っていきたいという事なのだろうが、この物語における妻は、本来脇役に過ぎない。よって、この部分には不満が残る。しかしまあ、米国が作るのだから自国民が喜ぶ話に多少変更するのはやむを得ないところか。

このリメイク版をみると、当時はちょいと安っぽいなあと感じた日本のオリジナルが、それでもいかに優れていたかが良くわかる。確かに見た目はゴージャスになったが、草刈民代の気高い雰囲気、主人公の淡い恋のすがすがしさ、家庭をもっている男の微妙に揺れ動く心など、繊細な心理描写は圧倒的に日本版の方が上手い。いずれにせよ元がいいから、それなりに満足できることは確か。ぜひ見比べてみてはいかが?



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