『コーヒー&シガレッツ』55点(100点満点中)

この上ないリラックス気分に浸る事ができる

良質な小品を送り出すことでファンの多いジム・ジャームッシュ監督の最新作。10数年にわたって撮りためた「コーヒーとタバコにまつわる短編」11篇を97分間にまとめたオムニバス作品。

11篇の内容は、本プロジェクトのきっかけとなったロベルト・ベニーニ出演の『変な出会い』をはじめ、撮影された時代も、撮影監督も、ストーリー(らしきもの?)も、そして出演者も様々なショートストーリー。共通しているのは、どの登場人物もやたらとタバコを吸い、コーヒー(ときに紅茶)を飲みながら(ほとんどが)くだらない会話をしているという事。喫茶店で隣に座った見知らぬ人間の会話をこっそり聞いているような気分になれる映画、とでもいっておこうか。

「とりとめのない会話なんぞ聞いてて飽きないのか?」と問われれば、そりゃ11篇もあるのだから途中で眠くなることもあるだろう。そういう時は遠慮なく眠ったら、と思えるほど、リラックスさせてくれる一本だ。

出てくる人物たちは、たいていが演じる役者自身の名前と同じ役名をもち、バラエティに富んだ会話劇を繰り広げる。スティーヴ・ブシェミ、アルフレッド・モリーナ、ケイト・ブランシェットといったクセのある役者たちが、これまたクセのある役柄を自然に演じている。

『コーヒー&シガレッツ』は、映画的なドラマ展開には一切期待せず見に行くべき作品だが、これがなかなか心地よく、気だるいカフェのムードがたまらない。コーヒーとタバコの相性のよさについて、延々と熱弁を振るう男の姿なんかを見てその滑稽さに苦笑したり、過去をかたる老人の話に思わずホロリとなったり。短い間によく人物を描けているから、興味は尽きない。そんな心に迫るエピソード満載の短編同士が、ときには互いに影響を与えていたりなど、オムニバスならではの構成も楽しめる。

個人的には気に入っている一本だが、かといって万人にオススメできる作品ではないというのも理解できる。そんなわけでこんな点数にしておいた。この作品は、明確な筋書きなどなく、ダラダラとした時間の中に時折心に残る台詞や音楽、役者の表情を見ることで快感を得られる、そんなタイプの人にすすめたい。なんにせよ、ひとつだけ確実にいえるのは、見終わった後は、誰もがコーヒーを飲みたくなるだろうという事だ(タバコを好きな方はそちらもか)。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.