『アビエイター』45点(100点満点中)

日本人には興味を持ちにくい題材か

20世紀のアメリカ映画業界と航空業界で成功を収めた大富豪ハワード・ヒューズの若き日を描いた伝記映画。主演はレオナルド・ディカプリオ(「タイタニック」ほか)、監督は巨匠マーティン・スコセッシ(「タクシードライバー」ほか)、製作費は150億円という堂々たる超大作だ。

億万長者の父が死去し、莫大な遺産を受け継いだ18歳のハワード(L・ディカプリオ)は、やがてその資金力を大好きな飛行機と映画製作に惜しげなくつぎ込むようになる。数十機の戦闘機を実際に購入し、自ら操縦して空中戦を撮影した戦争アクション映画「地獄の天使」は、当時の常識を覆す映像が話題となり大ヒットを記録する。

大女優キャサリン・ヘップバーン(ケイト・ブランシェット)を恋人にし、パイロットとしても世界一周の記録を更新、航空機の設計技師としても新発想の偵察機を開発するなど、その人生は順風満帆に見えたが、やがて彼にも転落のときが訪れる。

超大作「アビエイター」は、アカデミー賞11部門にノミネートされ、最多の5部門を受賞したが、期待されていた監督賞、作品賞、主演賞のメイン部門は全敗という苦い結果となった。スコセッシ監督はオスカー逃しの常連といわれるほどだから、事前に予測できたといえなくもないが、さすがにがっかりのはず。

一方レオナルド・ディカプリオも、今回は自身の思い入れの強いヒューズという人物を演じられるということで製作にも参加、例によって徹底的な役作りをして望んだだけに、念願の主演男優賞を逃した落胆は大きかろう。

彼以外の役者の演技も悪くない。ヘップバーンやエヴァ・ガードナー(どちらもこの時代のハリウッドを代表する女優でありヒューズの恋人)役の女優たちも、本人の出演映画をたくさん見てしゃべり方やしぐさを習得、違和感なく演じている。

空中戦のシーンや墜落場面では大胆にCGやVFXを使い、セレブたちが集うパーティーの場面などには衣装代だけで2億円を費やすなど、ゴージャスな映像のなかには見逃せないスペクタクルが満載だ。

とはいえ、物語に求心力がないのも事実。この『アビエイター』では、「奇人変人」として知られるヒューズの晩年はあえて詳しく描かず、野望に満ち、斬新な発想で旧態依然とした世界に挑んでいった若き日の彼の姿にスポットを当てている。

しかし後半は、強迫神経症にかかり、ドアノブすらティッシュ数枚ごしでなければ触れないほどみじめな姿を延々と描く。頂点に立った男の苦悩というわけだが、こういったところが、ハリウッドの伝記映画としてはいかにもステレオタイプな演出であり、飽きられる原因かと思われる。ちなみにヒューズは晩年、数十年間も世間から身を隠し、死体の本人確認が誰にもできないという哀れな最期をとげる。

英雄的な面を強調して描くという意図の元に作った伝記映画としては平均以上であろう。相当な下調べをして映像は当時の色をデジタル技術を駆使して再現、存在しない機種のエンジン音もなるたけ忠実に再現、役者にも最高の演技と役作りを要求……。しかし、それはつくり手側の思い入れが非常に強いという意味でもあり、日本人でそれに付き合いきれる人がどれほどいるかは微妙なところだ。2時間48分という長大さは、見ていて時間を忘れさせる……わけもなく、いつ終わるのかと思うような平坦な語り口が最後まで続く。

こいつはハワード・ヒューズに人並み以上の興味がある人が、体力のあるとき、一人で見るのに適した映画だろう。



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