『鉄人28号』30点(100点満点中)
見事、こども向けへっぽこドラマに生まれ変わった
1956年に月刊少年誌『少年』に連載され、テレビアニメも人気を博した横山光輝原作のロボットマンガの実写映画化。予告編を公開したとたん、「「デビルマン」の再来」などというトンデモない憶測を呼び、一部の人々(ダメ映画好き)の間では大変な期待をされている一本である。
舞台は現代の東京。突如悪の巨大ロボット「ブラックオックス」が現れ、東京タワーをはじめとした建物を破壊しまくる。みかねた小学生の金田正太郎は、父が開発した正義の巨大ロボ「鉄人28号」をリモコンで操作し、ブラックオックスに挑むのだが……。
さて、「鉄人28号」といえば、往年のテレビアニメファンにとっては特別な郷愁を感じる傑作漫画である。テレビアニメや実写化も何度か行われており、様々なバージョンが存在する。なかでも原作主人公の金田正太郎は、小学生ながら大人顔負けの活躍で、鉄人28号とともに少年たちの憧れ、ヒーローであった。
ところが今回のCG実写版では、かつてヒーローだった正太郎は今にも泣きそうなヘタレとされており、ファンを驚かせる。演じている子役の池松壮亮くん自体には演技力もあり、決して下手ではないのだが、根本的なキャラクター設定を誤っているとしか言いようがない。
物語は、往年のファンを熱くさせるどころかポカーンとさせる「単なるこどもドラマ」であり、とてもじゃないが、大人が見ていられるような内容ではない。ようするに、この実写版のターゲットはあくまで10歳未満のこどもたちであり、オトナの「鉄人28号」ファンなどは眼中にないということだ。
そう考えれば、大人のファンが「はぁ?」となる、リモコンの超近代的なデザイン変更なども何の問題もないといえる。こうなったら、敵役である川原亜矢子の脚の付け根丈ミニという、すばらしいコスチュームを堪能するくらいしか私たちには選ぶ道がない。ああ、川原亜矢子ってなんてプロポーションがいいんだ、あれでホントに30代後半か? いやー驚愕ではないか、わっはっは。……まさに、現実逃避である。
鉄人と巨大ロボの、CGを駆使して描かれた戦いはそれなりに楽しめる。妙にアニメチックなきらいはあるが、その時点ではすでに「これはこどもアニメなんだ、うん」と納得している自分がいるので、意外にも素直に楽しめるというわけだ。
バトル自体はきわめて単調で、その終焉もあまりに地味で拍子抜けするが、レトロな巨大ロボ同士が見慣れた東京の街で、スローな格闘を演じる姿はそれなりに新鮮でもある。ただし、CGは背景からも浮いており、決して良質とはいいがたい。のっぺりした質感の表面は、戦闘中もへこんだり傷がついたりといった変化はない。
舞台を現代に変更したことで、いくつもの非現実性が強調され、マイナス点も多かった。自衛隊は何をしているんだとか、あんなマヌケなロボで世界征服などどう考えても無理だろうとか、そのへんは現代を舞台にしている以上、誰もが思う疑問であろう。こども向けとはいえ、作中でその答えを提示してくれないと、フィクション世界に没頭できない。
横山光輝の原作同様、昭和30年代を舞台にしたほうが良いというのは誰が見てもわかっていることなのだが、そうなると画面に移る建物やら車、衣装まですべて一から作らなくてはならない。そんな予算など、要するに「ありません」ということか。
まあ結論としては、またも日本の誇る良質コンテンツがひとつ使いつぶされたな、という印象だ。こんな出来ではパート2など絶対に不可能だろうし、作っても誰も見に行くまい。多くの人々の思い入れのある原作を映画化するときは、もっと性根を据えたものを作らなくては、大衆の恨みを買うだけですゾ。