『エターナル・サンシャイン』40点(100点満点中)
感情移入しにくい、初心者お断りのドラマ
元コメディアンで日本でも人気のあるジム・キャリー主演、その他のキャストも豪華絢爛、脚本はハリウッドで引く手あまたの人気者チャーリー・カウフマン(本作でアカデミー脚本賞を受賞)という、話題性抜群の恋愛ドラマ。
別れた恋人(ケイト・ウィンスレット)とよりを戻そうと思っていた主人公(J・キャリー)は、ある会社から「彼女はアナタの記憶を消し去りました」という手紙を受け取る。その会社では、特定の記憶を消す手術を請け負っていた。傷心の主人公は、自分も彼女の記憶を消すことを決意、手術を依頼するのだが……。
全編SFというわけではなく、超自然的な設定はこのひとつのみ。もし失恋の記憶を消せるとしたら、あなたはどうしますか? というわけである。主人公は、あまりにつらいその記憶を一時は消そうとするのだが、消去作業中に彼女との幸せだった日々を思い出し、心変わりをする。しかし主人公の体自体は完全な眠りに落ちているため、施術者側にその思いを伝えることができない(途中での中止不可)。このままではかけがえのない大切な記憶が消されてしまう! 記憶の中の彼女はまだ自分と愛し合っていたころのまま、なんとか目の前の彼女を守らなくては!……という展開である。
とっぴな発想はさすがチャーリー・カウフマン、アカデミー賞を受賞しただけあって、味わい深い脚本だ。「特定の記憶を消すことができる」という超科学的設定をひとつあしらえただけで、恋愛のせつなさ、人間の不完全さという本質を見事に浮き彫りにする。
この脚本の訴えるものは哲学的で深いものがあるが、表面上のストーリー面にさほど面白い展開はない。その点が一般ウケを考えると致命的な弱点といえる。とくに、物語上の興味となる結末の意外性、これを私は冒頭20分の時点で読めてしまった。私は別段先を読もうとして見ていたわけではないので、多くの方が同様に感じることだろう。それでこの映画の魅力がなくなるわけではないが、ひとつ大きな興味を失うことは確かだ。
役者は豪華絢爛、脇役陣では「ロード・オブ・ザ・リング」で主人公フロドを演じたイライジャ・ウッドがまったく違うタイプのキャラクターに挑戦し、おそるべき不快な印象を観客に残していたり(演技者としては大成功)、「スパイダーマン」の恋人MJ役で知られるキルスティン・ダンストも、ノーブラTシャツで意外なまでのナイスバディを披露している。ほほう、こんなにスタイルよかったんだ、この子。えくぼも相変わらず可愛らしい。
「タイタニック」のケイト・ウィンスレットは髪を原色に染めた(この色が物語内では意味を持っている)とっぴなアメリカ娘=主人公の恋人を演じており、さすがにうまいとは思うが、誠実なジム・キャリーと恋に落ちる説得力に欠ける。これは役者のもつ雰囲気というかカラーによるものだから、演技力ではどうにもならない。ミスキャストと私は判断する。
この結果、『エターナル・サンシャイン』は感情移入することが難しく、ストーリーを追う事を何よりも楽しみとする初心者には向かない。感性で映画を「感じる」事ができる人には向くが、具体的にどういう人と指定しにくい以上、とりあえずこの点数にしておこう。