『Uボート 最後の決断』75点(100点満点中)

潜水艦映画にまたひとつ傑作が誕生した

敵味方が協力して動かす羽目になったUボート艦長らの、葛藤と決断を描いた潜水艦映画。

ときは1943年、第二次世界大戦の大西洋下。敵魚雷にやられた米潜水艦の艦長と乗組員数名は、敵Uボートの捕虜にされてしまう。しかし伝染病の蔓延により乗組員が激減、Uボート艦長は生存のためやむなく捕虜たちをクルーに加える決断を下す。両軍兵士が対立する中、米駆逐艦の攻撃を受け艦は損傷、背後からは友軍のUボートもやってくる。米独どちらにつくべきか、運命共同体となった彼らに最後の決断が迫られる。

生きるために敵軍と協力する決断をした時点から、この潜水艦Uボートの目的は微妙に変化していくことになる。すなわち軍隊として敵を殲滅するという目的から、いかに生還するかという事に、本人たちも知らずに変わっていくのだ。

この非現実的な設定が映画の中でそれなりにリアリティをもっている理由は、観客が素朴に感じるであろう疑問点に対する理由付けが上手というのが一点。そして、潜水艦という特殊な場所が舞台だからというのがもう一点だ。海軍、とくに潜水艦乗り同士は、敵といえどもある種の敬意というか、仲間意識のようなものが芽生えることがあると、私は経験者に聞いたことがある。

彼らのとった決断は、軍人、もしくは政治家としては失格かもしれないが、現場の指揮官、もしくは人間としてはそうとも言い切れないかもしれない……、といったような事を、見終わってから色々と考えさせられる。単純に反戦を唱えるタイプの戦争映画と比べたら、よほど心に響くものがある。考えれば考えるほど、ときに矛盾した行動を強いられる戦争というものの特殊性を痛感する。

水中場面でのCGは少々のっぺりとしているが、その他は迫力十分。艦内の水漏れや軍人たちの動きといったディテールもしっかりしている。この点ではもうすぐ公開の日本の潜水艦映画『ローレライ』よりずっと上だと感じた。

潜水艦映画の常として、皆同じ軍服なので登場人物が見分けにくくなりがちというのがあるが、この作品ではリアリティを失わずにキャラクターの外見、服装に個性を出してある。さらにドイツ語の台詞には字幕上でも区別をつけてあるなど、心遣いがこまやかだ。おかげでストーリーを追うことに集中できる。

人間がしっかりと描けているから感情移入しやすい。出てくる男たちすべてから人間的な魅力を感じられる。短時間でよくここまで描き分けたと感心する。こうした積み重ねのおかげで終盤、フェアプレーをみせる男たちの姿に素直に感動できる。これは本当に泣ける。

潜水艦映画の魅力である、爆雷を回避しながらの敵駆逐艦との戦闘や、魚雷を打ち合う潜水艦同士の戦闘場面もみごたえ十分。軍事モノ好きの人もきっと満足できると思う。かといって専門知識が必要な内容ではないので、普通の人がみても絶対に楽しめるだろう。男たちのさわやかな感動ドラマ、これを今週一番のオススメにしておこう。



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