『運命を分けたザイル』70点(100点満点中)

友達が死ぬとわかっているのにロープを切る勇気があるか?

実在の登山家ジョー・シンプソンとサイモン・イェーツが史上初めてシウラ・グランデに登頂した際に経験した、壮絶極まりない事故からの生還を描いたドキュメント・ドラマ。

1985年、ペルーのアンデス山脈の未踏峰シウラ・グランデの西壁。見事その登頂に成功した二人のクライマーだが、帰り道で遭難してしまう。互いの体をザイルで結び、ゆっくりと進んでいた二人だが、片方が転落、宙吊りになってしまう。共倒れを避けるため、主人公はついにザイルを切断する。

『運命を分けたザイル』は、いわゆる再現型ドキュメンタリーだ。再現ドラマを役者が演じ、本人へのインタビュー映像と交互に構成される。ナレーションも登山家本人が行っている。テレビでよくある企画だがテレビ番組と違うのは、再現ドラマ部分を実際に雪山でロケ撮影し、かつてないほどの映像を作り上げた点。

なにしろベースキャンプはヨーロッパ最高峰モンブランの山頂よりも標高が高い場所で、そこから3日間、撮影機材をつんだ80頭のロバとともにスタッフ、キャストがえっちらおっちらクライミングして、やっと撮影場所に行くという過酷さだ。空気は薄く体感温度はマイナス60度、まったくもってご苦労様としか言いようが無い。

これほどの映像があれば、ほかには何もいらないというわけか。音楽や演出効果は最小限に抑えられ、静かに映画は進行するが、それでもラストは涙ナシには見ることはできない。

主人公らに死が訪れる際の心理描写が優れており、その恐怖や絶望感はリアリティをもって迫ってくる。アカデミー長編ドキュメンタリー賞をとったほどの監督だから、そのへんの演出がさすがにうまい。

『運命を分けたザイル』は「生と死」というテーマに正面から向かい合った作品であり、人間が生きるため、本当に大切なものとは何なのか、無言で教えてくれる映画だ。登場人物がほぼ二人きりで、背景は雪山オンリーだからどうしても中盤冗長になる点がややマイナスだが、それでも相当うまく作ってある。芝居じみていない、本当の意味でリアルな、感動的なドキュメンタリーを見たい人にはオススメしておきたい。



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