『ボーン・スプレマシー』70点(100点満点中)

ディテールにこだわったスパイ映画の佳作第二弾

マット・デイモン主演のアクション映画「ボーン・アイデンティティー」の続編。ロバート・ラドラム原作小説3部作の第2作にあたる。

前作のラストから2年、無事逃げ切ったボーン(M・デイモン)とその恋人マリー(フランカ・ポテンテ)は、インドのゴアでひっそりと幸せに暮らしている。だが、ボーンはいまだに過去の忌まわしい記憶から逃れられず、悪夢にうなされていた。そしてついに、彼の平穏な生活は刺客の手により破られてしまう。

極力銃は使用せず(使えば達人並)、知恵と身体能力で敵に対抗するヒーロー、ジェイソン・ボーンシリーズのPART2だ。前作では記憶喪失で登場したボーン、体が勝手に動いて敵をやっつけていたが、今回は最初からエンジン全開。全力のボーンのアクションが楽しめる。

このシリーズの魅力は、非現実的なドンパチの派手さではなく、ディテールにこだわったリアルアクション。まあ、もちろんそれは映画上のリアリティ、であることは言わずもがなだが、ほかの能天気アクション映画とは明らかに違う。ストイックなムードが新鮮だ。

一例を挙げれば、ナイフで襲ってくる相手に対し、冊子を丸めて武器として対抗するといった護身術、都市部を逃亡する際、時刻表を見てからとっさに戦略を立てるといった行動、沈む車内で冷静に天井の空気を吸うなど、こうした細部を丁寧に描く映画はそうそう無いだろう。

これはスパイマニアや護身術フリークにはたまらない魅力だ。格闘場面もスピード感があり、標準以上の出来。マット・デイモンの全力疾走はかろやかで、身の軽さには舌を巻く。アクションシーンはすべて自らでこなしたという彼の顔は、前作にも増して精悍になった。

前作最大の見所であったカーチェイスは今回も健在。ドイツのポツダムでロケをしたこのシーンは迫力満点。リズミカルな音楽に乗って雑魚をけちらし突っ走っていると敵のリーダー車が現れるが、その瞬間バックの音楽がいかにも「ボスの登場〜!」的な勇壮な曲に変わるあたり、まるでゲームのようで面白い。

テーマは「ボーンの贖罪の旅」とでもいうもので、ストーリーもやや複雑だから、前作を必ず見直してから見ていただきたい。そのほうがより楽しめるはずだ。

元スパイならではの行動のディテールをしっかり描くことで主人公の凄さを印象付け、ありえない展開にもリアリティを持たせたこのシリーズ。アクション映画としては平均よりはるかに上をいく出来ばえだ。完結編となる次回作も楽しみである。



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