『アレキサンダー』55点(100点満点中)
アレキサンダーはゲイだった?!
歴史上初めて世界を統一した英雄といわれるマケドニアのアレキサンダー大王(ギリシャ語形アレクサンドロス)の生涯を、総製作費200億円を費やして描いた歴史超大作。
ときは大王の死後40年、世界中の知性を集めたアレキサンドロス図書館で口述筆記をしているのは、大王のもと側近でありファラオのプトレマイオス(アンソニー・ホプキンス)。彼がアレキサンダー(コリン・ファレル)の生涯とその死の謎を語る形で映画は始まる。
アレキサンダー大王といえば、紀元前356〜前323年までのわずか32年間の生涯で、史上最大の大帝国を築いた歴史上の英雄。なかでもこの映画では8年間に渡る東方遠征の、戦いに明け暮れた日々を中心に描いている。当時無敵を誇ったペルシャ帝国の軍を圧倒的に少ない軍勢で倒し、西はギリシャから東はインドまで勝ち進んでいった彼の進撃の様子を、「プラトーン」のオリバー・ストーン監督が斬新な解釈で描いているのが特徴だ。
その解釈とは、一言でいえば大王をゲイ(というかバイセクシャル)だと匂わせている点と若き死の真相。後者については映画を見ていただくとして、彼をゲイにしてしまったことで本作はギリシャ人アレキサンダーファン(?)らの怒りを買い、裁判沙汰にまでなってしまった。
予定されていたコリン・ファレルと側近役のラブシーンはさすがにカットされたとはいえ、この解釈に反発したのがアメリカの観客。この監督らしい戦争批判(現代のアメリカ帝国主義批判につながると見えなくもない)が含まれていることもあってか、米国での興行は失敗した(ヨーロッパでは比較的好調なのだが)。まあ、この手の歴史ものは製作費が膨れ上がる割には観客の好みが激しく、コケるときは大きくコケるものだ。早くもラジー賞(アカデミーの裏で開催される駄目映画コンテスト)にノミネートされてしまいお気の毒。
ただし、もともと派手な映像を好むこの監督が、200億円ものおこづかいをもらって作った映画であるから、戦闘シーンやペルシャの都バビロンの豪華絢爛なセットはさすがに見ごたえがある。肉片が飛び散り、血液がふきだすスプラッタ系の戦闘シーンなど見ると、2300年前を描いた歴史映画というよりほとんど戦争映画だ。
アレキサンダーは自らを伝説の英雄アキレスの子孫だと思っている男として描かれているので、昨年公開されたばかりの『トロイ』(アキレス役をブラピさんが演じている)を見ておくと、そのつながりが意識できて面白い。『アレキサンダー』はある意味『トロイ2』なのだ。ただし、歴史スペクタクルとしてはあちらの方がとっつきやすく、面白さも上だろうと思うが。
『アレキサンダー』は英雄群像劇ではなく、あくまでアレキサンダー大王自身を描くことにスポットを当てた映画なので、その他の登場人物はあくまで彼との関連として描かれる。よって、数々の戦いの様子と、彼がどんな気持ちでそれに挑んでいたか、そうした彼の内面部分に興味がない人には厳しいだろう。
ちなみに、終盤の戦闘シーンで登場するインド軍のゾウさんたちは実はタイのゾウで、先のスマトラ沖地震の際には、復旧作業に大活躍したそうだ。ささやかながらちょっぴり点数を上乗せしておこう。