『レイクサイドマーダーケース』70点(100点満点中)
ビックリ結末!ミステリ好きが満足できる映画化だ
日本を代表する(といってもよかろう)ミステリ作家の東野圭吾原作『レイクサイド』の映画化。
中学お受験を控えた3家族が集まり、湖畔の別荘で合宿を行うことに。主人公(役所広司)と妻(薬師丸ひろ子)は別居中で冷め切っているが、娘のために不仲を隠し参加している。冷静な塾講師(豊川悦司)の見事な指導の元、勉強に励む子供たち。ところが、突然現れた主人公の愛人が殺されたことで、状況は一変する。
人里離れた湖畔の別荘、お受験合宿などといった非現実的な設定、みな一癖もふた癖もありそうな怪しげな登場人物。登場するのはわずか11人。どの要素もミステリファンの心をくすぐるものだろう。いわゆる本格ミステリの醍醐味というやつだ。この映画はその魅力を余すところ無く映像化しており、まずは「抜群に面白い!」と言っておこう。
東野圭吾のライトミステリらしい雰囲気もよく出ている。申し訳無いことに私はこの原作は未読であるが、彼の作品はほかにたくさん読んでいるから、この作者独特の作風がバッチリ映画から伝わってくる事だけはわかる。多少原作に変化を加えたという結末を含め、作者自身も満足のいく出来だと語っているが、あながち社交辞令というわけでもあるまい。
一軒の別荘という、ほぼ密閉された空間でのドラマだから、舞台劇と同じで役者の演技力がモノをいうが、その点も文句無し。なかでも、先日私も試写を見させていただいた(さらに言うならちょいと期待はずれだった)『ローレライ』に主演したことでも話題の役所広司はいい味を出している。
もちろん、彼以外の10名もいずれ劣らぬ名演、怪演ぶり。彼らによって、独特の不気味さ、不可解さ、そして緊張感を保ったまま見事なドラマが成立した。ちょっとだけ非日常の要素がある本格ミステリの世界は、役者の出来次第でただの馬鹿らしいドラマになりかねないだけに、演技派で固めたキャスティングは正解だった。
この映画の最大の魅力は、やはりミステリらしい衝撃の結末といえるだろう。登場人物の内面描写を控え、あえて心理状態を観客に明かさぬことで、うまくミスディレクションしている。このへんはさすがにベテラン作家の原作らしく手慣れている。このどんでん返しにはびっくり仰天だ。結末に必要以上の説明をくっつけなかったことで、不気味さが増した。これはいい終わり方だ。
この映画を見て「警察は?」「その後は?」「子供は?」などという事を考える必要は無いだろう。そうした突っ込みを脳裏に浮かばせないほど物語の進行と展開が面白い。退屈する間もなく仰天のラストまで持っていくテクニカルな語り口は、まさに東野圭吾の推理小説の世界だ。
難を言うとすれば、ひとつの見せ場である死体処理場面の具体的な描写がまだまだ物足りない点と、お受験という題材がちょっと賞味期間切れといったくらいか。
『レイクサイドマーダーケース』は、ミステリ好きが十分満足できる映画化といえそうだ。やはりストーリーが面白い映画には魅力がある。ただし、物語にリアリティやら細部の整合性を求めるタイプの人にはあまり向かないかもしれない。本格ミステリは一種のファンタジーだから、その点を理解していれば楽しめるだろう。