『ターミナル』65点(100点満点中)
面白すぎる題材、アイデアと語り口に引き込まれる
スティーヴン・スピルバーグ監督作品最新作。主演は同監督の「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」に引き続き、演技派俳優のトム・ハンクス。
ニューヨークのJFK国際空港に到着した主人公(T・ハンクス)は、フライト中に祖国の政府がクーデターにより消滅したことを知らされる。政府発行のパスポートは無効となり、アメリカへの入国は不可、かといって帰国する国もなくなってしまった彼は、やむなく空港の到着ロビーで暮らす羽目になる。
かくしてお金もなく、食料もない彼の空港サバイバルがはじまるのである。このつかみは本当に見事だ。題材も見せ方も完璧で、物語に一気に引き込まれる。主人公を演じるトム・ハンクスは、愚直で心やさしいこのキャラクターにぴったりだし、観客の誰もが、不幸な境遇に陥りながらもたくましく生きていく彼の姿に共感できるだろう。
英語すらできない彼だが、よくよく見れば空港ロビーというのは生活に必要なものはすべてそろっている。あとはいかにしてそれを手に入れるかということだが、彼が選ぶその方法が実にユーモラス。こんなサバイバル術があったのかと感心するし、純粋に心が踊る。
意地悪な係官の嫌がらせにも負けず、飄々と暮らしていく彼はやがてロビーの名物となってゆくが、その過程でさまざまな空港労働者たちとの友情が生まれる。このへんはじつに心温まる人間ドラマだ。ほのぼのする話が好きな人にはたまらないだろう。
映画というのは、嘘をいかに楽しく見せてくれるかというところにひとつのポイントがあるが、その点「ターミナル」はなかなかよい。壮大な空港セットを作り、大量のエキストラをそこに配置し、演技力に定評のある役者に主役を演じさせることでこのファンタジー物語をそれなりにリアルに成立させている。これを見ると、もしかしたらアメリカならこういう事もありそうだな、と感じてしまうだろう。と同時に、そんなあの国のいいかげんさが、妙に愛すべきものに見えてくるのだから不思議だ。
ただ、どうせなら「ちょっといい話」程度の線を狙ってほしいところだった。『ターミナル』はせっかくいい冒頭部分があるのに、後半で奇跡のオンパレードをやりすぎたため、ちょいと冷める。そのくせキャサリン・ゼタ=ジョーンズ演じるフライトアテンダントとの恋の話が中途半端でそこだけ浮いている。
とはいえ、2時間夢中にさせるだけのストーリーとその語り口はさすがスピルバーグ。誰が誰と見に行っても平均以上の満足を与えてくれることだけは間違いない。オススメである。