『ゴジラ FINAL WARS』65点(100点満点中)

警告:ゴジラファンが予備知識なく見ると危険

1954年から長きにわたって続いた『ゴジラ』シリーズ最後の作品。『あずみ』の北村龍平監督が豪華キャストで送る大団円だ。

時は近未来、怪獣たちに対抗するため国々は一丸となり、防衛軍を組織した。とくに特殊能力をもった新人類による特殊部隊は、対怪獣戦闘専門として大きな期待を背負っていた。そんなとき、世界各国に同時多発的に怪獣が出現、特殊部隊員の若きエース(松岡昌宏)や海底軍艦轟天号の艦長(ドン・フライ)らが必死の防衛にあたるのだが……。

はじめに断っておくが、過去のゴジラ映画ファンや、怪獣映画にこだわりをもった方は、決して『ゴジラ FINAL WARS』を何の予備知識もなくみてはいけない。そういった方は、この文章を最後までお読みになった上で、覚悟を決めて鑑賞することを強く勧める。

『ゴジラ FINAL WARS』は、大人のゴジラファンの思い入れも、子供観客たちの期待もへったくれもない、とんでもない“ゴジラ映画”だ。そもそもこれを『ゴジラ』と呼んでいいのかさえも迷うほどの凄まじい内容に、古きを知る者たちは椅子からずり落ちそうになること間違いない。

北村監督は、“最終作”とされるのこのゴジラ映画で、ゴジラの概念をぶち壊した。もはやこれはゴジラ映画ではなく、北村映画だ。東宝も、よくぞこんな内容を許したと感心する。完全にこのシリーズを捨て去るという、まさにこれで最後!という気合を感じさせる。

ここまで書くと、過去に『あずみ』をさんざんけなした前田のことだ、また10点でもつけるのだろうと思う人もいるかと思うが、さにあらず。私は今回、この映画を作った北村龍平監督を強く擁護したい。

何といってもここ最近のゴジラはひどかった。リアリティゼロの3流子供映画に成り果てた、あんな半端なシリーズをダラダラと続けることに何の意味があるというのか? あんなものを毎年作ったところで、監督にも映画会社にもいつまで古臭い事やってんだというマイナスイメージにしかなるまい。旧態依然とした近年のゴジラシリーズの残滓を、完膚なきまでに破壊した北村監督と東宝の担当者に、まずは喝采を送りたい。

この完結編で世間のファンたちにゴジラ論議のひとつも巻き起こして、ニーズが増えたら復活させるというわけか。まあ、それが上手な商売というものだろう。そういう観点からすれば、惰性で続けるよりはぶっこわしたほうがずっといい。

確かに『ゴジラ FINAL WARS』は、ゴジラと題しておきながら過去のシリーズへの遠慮など皆無で、北村流アクション一本やりの奇妙な映画だ。怪獣同士の戦いや大層なテーマなんぞより、人間同士の格闘アクションや銃撃戦、バイクアクションや寒いギャグという、彼の得意な事ばかりをやっている。

映画を見るとわかるが、中盤にはすっかりゴジラの香りが消え去り、マトリックスやMi-2、スターウォーズといったアメリカ映画の劣化コピーのようなアクションシーンが連発される。CGもワイヤーも多用しているが、重要な一部のシーンを除きかなりテキトーな出来映えで、ネタ元のハリウッド映画と比べると、ガンダムとジムくらいの差はあるだろう。まあ、低予算でも似たようなものが作れるよ、という事だけはよくわかった。

後半になると、ヤケになったように出現する大量の懐かしい怪獣たちとゴジラとの勝ち抜き戦が始まるが、これなどはポケモンバトルのようで大変ほほえましい。今回のゴジラは、顔がなんだか猫みたいでとてもかわいいのだ。その猫ゴジラが、元アルティメット大会王者のドン・フライよろしく、マウントポジションからタコ殴りで敵怪獣を倒す。こんなハチャメチャなゴジラ映画には、二度とお目にかかれないだろう。

なりっぱなしでやむことのないロック音楽をバックに、上記のようなごたまぜの見せ場が続々登場する。それで2時間以上だから見てるほうも最後には疲れるが、意外にも中だるみはない。

そんなわけで『ゴジラ FINAL WARS』は、お子様向け特撮映画でも、大人のファンが喜ぶマニアな怪獣映画でもない。あえて命名するならば、北村龍平's オレ様映画だ。そのエゴも、ここまでくればアッパレというほかない。

もしもこれが彼オリジナルの映画作品であったならば、ただのヘンな映画という評価でおわったところだが、重要なのは、これは伝統あるゴジラシリーズの、しかも最後の一本という点だ。普通なら少しは歴代のゴジラの威光に萎縮して手が縮むところを、北村監督は往年のファンに真っ向から喧嘩を売るような、自分流の作品に作り上げた。その反骨精神たるやよし、ではないか。

少なくとも一般人にとっては、優れたアクションの見せ場満載のこちらのほうが、従来のゴジラよりはるかに楽しめるし、面白いはずだ。熱烈なゴジラファンも、今回だけはそんな気軽な心構えで挑んでみてはいかがだろう。



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