『Mr.インクレディブル』65点(100点満点中)

笑いとワクワク感をつめこんだ安心感ある一本

昨年『ファインディング・ニモ』を世界中で大ヒットさせたディズニー&ピクサーの長編アニメーション最新作。アメリカでは公開直後の興収でディズニーアニメ史上最高記録を達成した。5分間の短編『バウンディン』と同時上映されるが、こちらは『Mr.インクレディブル』とは関係ない内容のほのぼの系作品。

かつてスーパーヒーローだった主人公は、今ではしがない保険会社社員。専業主婦の妻も子供たちもみな超能力をもつヒーロー一家だが、誰もが有り余るパワーの使い場所を持たず、ストレスはたまる一方だ。そんなある日、かつてのヒーロー仲間が次々と失踪するという事件が起きる。

『トイ・ストーリー』『モンスターズ・インク』など、3D-CGアニメ映画で確実にヒットを飛ばすピクサー社製作の最新アニメだ。今回は、はじめて人間の登場人物をメインにしたアクションドラマ。スーパーヒーローといえば、空も海も飛び回り、強大な敵とバトルを繰り広げるわけなので、昨年末の『ファインディング・ニモ』と違ってダイナミックな動きのある見せ場がたくさん用意されている。

この映画は、それぞれ違った能力を持つヒーローが各地に何人もおり、それぞれが交流を持っている(あたかも一つの業界のようだ)という独特の世界観を持つ。主人公のインクレディブルは、かつてのライバルだったスーパーヒロインを妻にしているし、飲み仲間の正体も氷を自在に操る元ヒーローだ。引退した彼らが一般社会でちんまりと生きている姿は実に窮屈そうでほほえましい。

「昔の栄光を知らぬ子供たちに“かっこいい父親”を見せたい」という主人公の思いは誰もが共感しやすいものだし、失敗しながらも家族の助けでハッピーエンディングを迎えるという健全なストーリーはまさにディズニー作品といったところ。予定調和な物語を飽きずに見せるというのは簡単そうで難しく、毎回それを高いレベルで実現させているピクサー&ディズニーは大したものだ。今回も、幅広い観客層のすべてをそこそこに満足させるだけのものを作り上げてきた。特に、中だるみのないシナリオ作りはいつもながら上手い。

ヒーローと悪のバトルシーンはどれもよく出来ており楽しい。氷上をスイスイ滑りながら巨大ロボの攻撃を交わしていくクライマックスなど、誰もが純粋に視覚的な快感を得ることが出来るだろう。

さて、『Mr.インクレディブル』にはお涙頂戴はほとんど無い。その代わりに笑いとワクワク感をつめこんだ、とびきり楽しい一本に仕上がっている。完成度は相変わらず高い。見て失敗したということにはまずならない、安心感ある定番の一本だ。



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