『ニュースの天才』65点(100点満点中)
トム・クルーズが惚れた脚本
98年に実際に起こった雑誌記事捏造事件を事実に忠実に映画化した作品。脚本が気に入ったらしく、トム・クルーズが制作総指揮として参加している。
主人公スティーブン・グラスは、米国で最も権威ある政治雑誌「THE NEW REPUBLIC」で最年少のライター。同僚たちが国際情勢など外に目を向ける中、国内の身近な題材を独自の切り口で取材した彼の記事は人気を博した。だがある日、スクープを抜かれたライバル社の記者が裏づけ調査をしたところ、記事内にいくつものほころびを見つけてしまう。
「THE NEW REPUBLIC」というのは、軍モノ映画ファンにはおなじみのエアフォースワン(アメリカ大統領専用機)に、唯一常備されている政治マガジン。それほど権威のある雑誌で1998年、記事の捏造が行われていたことが判明した。
数々の捏造記事を書いていたのが本作の主人公、スティーブン・グラス。映画は、読者を楽しませる記事を書ける有能ライターであった彼の残酷な転落物語を、意外にカラッと描いている。おかげで、気軽に楽しめる社会派ドラマにしあがった。主演男優(へイデン・クリステンセン)は外見をふくめ見事な役作りで挑んでおり、脇役陣にも実力ある役者が揃っていて安心感がある。
このライターがいかに捏造することになったか、そのへんの心理がわかりやすく描かれていて、似たような業界にいる私にとってはリアリティがあって楽しめた。もちろん、そういう業界以外の方でも、若者がたやすく転落していく姿、権威ある雑誌にだまされる読者、もしくは他の編集者たちの立場になってこの映画を堪能できることだろう。
基本的には事実をなぞった地味な映画なのだが、ラストだけは実に傑作で、これを見られただけで救われたという感じだ。なんといっても、舞台となる時代がつい最近であるということで、当時の様子を覚えている観客も多いだろう。そんな人たちにとって『ニュースの天才』は、なかなか楽しめる一本になるはずだ。