『ポーラー・エクスプレス』60点(100点満点中)

原作絵本を見事に膨らませた

クリス・ヴァン・オールズバーグ(『ジュマンジ』原作など)の名作絵本『急行「北極号」』を3Dアニメーションで映画化。主人公の少年をはじめ、主要なキャラクター5役をオスカー俳優のトム・ハンクスが演じている(器用ですなぁ)。私が見たのは字幕版だが、日本語吹き替え版では唐沢寿明が同じ役を演じるそうだ。

イブの夜、クリスマスとサンタクロースに疑いを持ち始めた年頃の主人公少年(声:T・ハンクス)の家の前に巨大な蒸気機関車が現れる。行き先は北極点だと告げる車掌(声:T・ハンクス)に誘われ少年が汽車に乗り込むと、そこにはたくさんの子供たちが乗っていた。

映画が始まると、きっとほとんどの方は「何だこりゃ、こんなにリアルならアニメである必要なんてあるのか?」と仰天するだろう。いわゆるモーションキャプチャー(俳優の顔や体に多数のマーカーをつけてその動きをコンピュータ上に取り込み、CG化して着色する)で作られたこのアニメ映画のキャラクターは、アニメといいながらもまるで実写のようななめらかに動く。

何しろ、俳優につけられたマーカーは顔だけでも150個(!)。その効果は、キャラクターの表情がアップになった時に真価を発揮する。はたしてここまでやる必要があったのかどうかはともかく、その技術自体には驚かされる。この映画の製作者は、誇りを持ってこの技術をパフォーマンス・キャプチャーと呼んでいる。

原作は、ラストにちょっとホロリと暖かい涙を流させる、クリスマスにぴったりの希望に満ちた物語。とはいえしょせんは絵本だから、内容をいかに膨らませるかがひとつの見所だったが、その点は娯楽映画を得意とするロバート・ゼメキス監督(『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズほか)の独擅場といったところで、あの絵本からよくここまでダイナミックに世界を広げ、見せ場を創出したなという印象をうける。そのくせ原作絵本のもつファンタジックなムードを(こんな不気味寸前の超リアルアニメでありながら)保っているのは大したもの。

映画版はCGアニメの特性をふんだんにいかした見せ場の連続で、スピード感あふれる(まるでジェットコースターのような)汽車の疾走シーンや、車内でのココアサービスのシーンなどは、原作をはるかに上回る面白さで見せてくれる。このテンポのよさは、とにかく見ていて気持ちがいい。

もともとの絵本を読んでみると、『ポーラー・エクスプレス』はそのコンセプトを含め非常にうまく映画化していることがわかる。「クリスマスを信じてる?」という子供たちへの問いかけやテーマをわかりやすく強調し、同時に大人が見ても退屈しないレベルのエンタテイメントとして成立させている。基本的には子供たち中心のファミリー向け映画だが、クリスマスの季節に見るなら大人でも決して損したとは思わずに劇場を出てこられるだろう。

『ポーラー・エクスプレス』は最初から、超巨大画面をもつIMAXシアターで3D上映される事を想定して作られた作品で、アメリカを皮切りに世界中でIMAX立体映画版が公開される予定だ。私としては、そちらの方も早く見たいと思ってしまう。



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