『ターンレフト ターンライト』85点(100点満点中)
よくぞロマコメでここまでやった、すごすぎる
台湾の絵本の原作を、金城武主演で映画化したラブストーリー。ワーナーブラザーズ映画初の中国語作品であり、力の入った一本。
主人公のバイオリニスト(金城武)とヒロインの貧乏翻訳家(ジジ・リョン)はアパートの隣同士──だが、お互いの存在はまだ知らない。そんな二人が町で出会い、電話番号を交換したのはよいが、翌日そのメモは雨でにじんで読めなくなっていた。二人はこの出会いに運命を感じて、お互い必死に相手の居場所を探す……隣同士だとは気づかないまま。
これはすごかった。最初はもうなんてアホな話かと、天下のワーナーブラザーズも、ついにこんなくだらない映画を出してきたかと思ったが、(私の想定する)「ターンレフト ターンライト」の正しい楽しみ方を理解してからはその印象はサイコーへと変わった。平たく言えば、この映画は、まじめな恋愛映画を期待してみてはいけないのであった。とにかく笑い飛ばすこと、これがポイントだ。
「ターンレフト ターンライト」は、ロマンティックコメディである……と、一応いっておこう。なにしろ、そう思っていたほうが楽しいから。だが、その常識を超えたすさまじいラストには試写場内が騒然、「ついにやっちまった!」と誰もが驚愕した。完璧な形の結末をつけてくれた。
ストーリーは、もう30秒に一回は突っ込めるという気恥ずかしいもの。演技の下手っぴさ、くささ、ベタなギャグ、二人の行動、キャラクター、セリフ、ありえないすれ違いの数々、もうすべてがアホの一語。金城武くんの恋愛映画ときいて、「これなら無難だろう」と初デートにこんな映画を選んでしまったら、そのカップルの行く末が心配になるほどだ。初映画がこれじゃ、その恋はあまりに悲しすぎる。
だが、二人の間に共通の笑いのネタ(それもたぶん、末永く語り継がれる)がほしいカップルにとってはぴったりだ。上映中からアイコンタクトで笑いまくれるはず。そして最後は、感動の涙(いや、大爆笑の涙?)を流して大満足というわけだ。
撮影はいかにも美しいロマンティックコメディ映像なのに、やってることはまるっきり中国映画的コント。こいつはくせになる組み合わせだ。予告編がなぜか「感動ラブストーリー」風に演出されている点も心憎い。どうやらワーナーの人たちは、相当ないたずら好きのようである。あれを見てから実際の映画をみたらどうなるかを想像すると、思わず吹き出しそうになる。
私はこの映画こそ、金城武最高傑作であると宣言する。実は同じ日に彼の「ラヴァーズ」も見たのだが、このインパクトとはまったく比較にならない。今週の恋愛映画はどれも佳作ぞろいだが、「ターンレフト ターンライト」こそ、その頂点に立つロマコメだ。何が何でもこれだけは味わってほしい。