『ソウ/SAW』90点(100点満点中)

低予算なのに年間ベスト級の大傑作

新進気鋭の監督作品が集まるサンダンス映画祭でも大好評だったサスペンスホラー。今週は、今年で一番多数の傑作が揃った激戦区の週であるが、中でも私がイチオシにしたいのがこの「ソウ/SAW」だ。

目がさめるとそこはだだっ広いバスルームのような部屋。自分の足は太いチェーンで部屋の隅につながれている。部屋の対角線上には見知らぬ男が同じようにつながれている。そして恐ろしいことに、二人の中間点、部屋の中央部には、頭を打ち抜かれうつぶせに倒れた死体が横たわっていた。なぜこんな場所にいるのか、さっぱりわからないまま、二人に「6時間以内に相手を殺さないと、2人とも死ぬ」とのメッセージが告げられる。

低予算なのに安っぽさはなく、ものすごい面白さ。今年のホラー、サスペンスの中ではダントツの傑作の登場だ。こんなに恐ろしい映画は数年に1本あればいいほうだろう。怖くて怖くて、見ちゃいられない。

これは単なる不条理ホラーではなく、ちゃんと納得のいく論理的な結末が用意されている。ストーリーは一歩先までは読めるが真実は常にその先にあり、決して読み切ることはできないだろう。すなわち観客は、巧妙に「読まされている」のだ。これはミステリとして超一流といえる。謎解きのヒントはあちこちに大胆にばらまかれている。映画が終わった後、「ああ、そういえば!」と地団太をふむ快感を存分に味わえる。

結末の大ショック、タイムリミットがある緊迫感、わずかに残された脱出のためのアイテム(ゲーム的面白さ)、つまらない部分は1秒もない。私はこの日、直前に「オールドボーイ」という非常に面白い映画を見て満足していたのだが、それが完全に吹っ飛んでしまった。

「ソウ/SAW」は残酷な映画だが、それは直接的なものというより想像力を喚起させるテクニックでそう感じさせる。もちろん、目に見える数々のセットもよくできている。恐怖を増幅させる音楽も見事だ。

また、この映画はこんなに面白い娯楽ホラーなのに、語るテーマはなかなか考えさせられるものがある。意外な犯人が語るその理屈を、あなたはいったいどう感じるだろう。

「ソウ/SAW」は、私が思うに今年のすべての映画の中でもベスト候補に入るほど抜群に面白い映画だ。今週は何本も見てほしい映画があってオススメマークがずらずら並んでいるが、ホラーがよほど嫌いという方以外は、迷わずこの映画から見てほしいと思う。絶対に後悔はさせない、自信を持ってオススメする。



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