『隠し剣 鬼の爪』65点(100点満点中)
感動的なラブストーリー時代劇
「たそがれ清兵衛」の山田洋次監督が、前作に続いて藤沢周平作品をもとに映画化した時代劇。『隠し剣鬼ノ爪』と『雪明かり』の両短編をまとめて長編映画にしたものだ。
幕末、東北のちいさな藩が舞台。貧乏な下級武士の宗蔵(永瀬正敏)は、数年前に彼の家に奉公にきていた娘(松たか子)に偶然再会した。だが、すっかりやつれた彼女を見て宗蔵は心を痛めた。彼女がいたころ、宗蔵の家は貧乏ながらも笑いの絶えない幸せな暮らしだった。その後彼女は豊かな商人に嫁いだので、宗蔵は幸せになっているだろうと思っていたのだ。
「隠し剣 鬼の爪」は、身分を越えた純愛を描く時代劇だ。よくできたセットと素朴で美しい東北ことばとともに、和風のプラトニックなラブストーリーが展開する。この厳しい時代に愛を貫く主人公の姿が感動的だ。たまにこうした本格時代劇で、武士のまっすぐな心を描いているのをみると、日本人てのはいいものだなぁと思える。
永瀬正敏に比べると松たか子の演技はイマイチだが、まあギリギリ許せるところか。ただ、ストーリー上、中盤に彼女の存在がパッタリ消え去る点が気になる。おかげでテーマが一瞬揺らいでしまう。私はここに、二本の短編をまとめた事による不協和音のような印象を感じた。
ただ、それ以外は殺陣もいいし、最後まで飽きずに見ていられる。10年後も心に残る傑作……とまではいかないかもしれないが、最近の時代劇映画の平均点よりは、確実に上を行く作品ではあるだろう。