『マッスルモンク』20点(100点満点中)
珍妙この上ない筋肉スーツと色っぽいダンス
香港を代表するトップスター、アンディ・ラウ主演の、一風変わったアクションドラマ。日本では、最新作『LOVERS』と上映時期が前後したが、『マッスルモンク』は2003年の作品で、香港ではその年の年間ランキング第3位というヒットを記録した。
ボディビルダー顔負けの筋肉を持つ元僧侶(A・ラウ)は、他人の前世での業(カルマ)と将来の死因まで見えてしまう能力を身につけたことで、この世の無常と自身の無力感にさいなまれていた。今では俗世間でストリッパーをして暮らしているが、ある日愛する女刑事(セシリア・チャン)の醜悪な前世と悲惨な死に様を見てしまう。
とにかくまあ、突っ込みどころ満載のすばらしいおバカ作品だ。真っ先に目に飛び込んでくるのが、主人公アンディ・ラウの異様な筋肉スーツ姿であるが、ただの修行僧がなぜこんなにマッチョなのかさっぱり不明。そもそも、この話の主人公がマッチョマンである必要性がどこにあるのかも全くわからない。「アンディにこの着ぐるみ着させたら面白いんじゃない?」位の理由しかないのではないかというテキトーさを感じさせる。
この筋肉スーツがまた実にチープで泣けてくる。アメリカから特殊メークの専門家を呼んで、相当な金と期間をかけて最新の技術で作ったらしいが、どうみても日本のお笑いコントで使う肉じゅばんにしかみえない。
おまけに最初にこれが観客に披露されるのは、アンディ・ラウが男性ストリッパーとしてパンツを脱ぐシーンである。情けないことこの上ないが、そのときのアンディのダンスと流し目の色っぽい事ときたらない。あまりのインパクトの強さに夢にまで見そうだ。
この、ロニー・コールマン(注・世界で一番筋肉の多い男、たぶん人間)のような体にアンディ・ラウの顔がくっついている不気味な生物が、他の出演者一同とまじめな演技で絡んでいる違和感は、何分たっても消えることは無い。
『マッスルモンク』が珍妙なのは、これだけお馬鹿な設定なのに、やたらとシリアスなストーリーが展開するという点だ。テーマは仏教的で、前世のカルマによって悲惨な死が約束されている恋人を、なんとか主人公が救おうと努力するというものであるが、後半からはいかにもアジア的というか、暗いムードのまま話が進んでいく。
この、恋人の女刑事が背負ったカルマというのがまた傑作で、彼女の前世は大戦中に中国人を虐殺した日本兵というものだ。その回想として、鬼のような形相をした日本兵が、いたいけな中国人民を日本刀で惨殺しているシーンが何度も流れる。勘弁してくれと思う瞬間である。
今や押しも押されもせぬ大スターのアンディ・ラウが、何もこんなバカバカしい作品に出る必要など微塵も無いのだが、そこはさすがマルチな活躍で知られる彼というか、案外楽しんで着ぐるみを着てそうなところが微笑ましい。
見ればびっくりの珍作ということで、やはり今回「今週のダメダメ」の称号を与えるのはこれしかないだろう。