『ヘルボーイ』70点(100点満点中)
期待していない人にとっては意外な掘り出し物
マイク・ミニョーラによるアメコミ原作の映画化。その他のアメコミ映画の例に漏れず、お金やCGをたくさん使って作られたアクション娯楽大作だ。
ナチス・ドイツの時代に生まれた魔界の生物ヘルボーイは、今は成長して怪物ハンターとしてアメリカ・超常現象捜査局に所属している。そして、その頑健な肉体と超能力で日々戦いに明け暮れていた。だが、邪神の復活を狙う怪僧ラスプーチンが魔界から復活したことで、かつてない死闘が始まった。
日本では原作がほとんど一般には知られていないし、著名な大スターが出ているというわけでもないので、市場からはまったくマークされていない。ただ、あちらでは大人気コミックの映画化ということで高額な予算がついているので、堂々大作として製作された一本というわけだ。
主人公ヘルボーイは魔界からの使者であり、強力な戦闘能力を持つが、生まれたときに幸い善人のアメリカ人博士に拾われたおかげで、中身は人間と同じ心を持った善のヒーローとして成長した。そして今では超常現象(たいていは魔界からの生物が原因)の解決を一手に引き受ける“人類の切り札”的存在となっている。
ヘルボーイが所属する超常現象捜査局には、彼のほかにもサイコメトリック能力を持つ半魚人が人類の味方として存在しており、人間の局員らと軽妙な会話のやりとりをしながら難事件を解決していく。
こうしたキャラクターの設定など、評判の高い原作がバックにあるだけあってしっかりしている。どのキャラクターも非常に立っており、魅力的だ。人間よりも人間くさいヘルボーイには、誰もが共感しやすいだろう。髪型が日本のチョンマゲなあたりも微笑ましい。
全編通して大きな見せ場となるバトルシーンは、一言で言えばアメリカンプロレスのような豪快でマッチョなもの。強烈な敵の攻撃を、ヘルボーイはかわすこともなく全部受けきって、何十発も殴らせて、その上で大反撃をぶちかまして破壊する。なかなか新鮮だし、爽快なことこの上ない。
戦いながら常にブツクサと悪態をついたり、恐怖感のひとつも見せず、のしのしと巨大な化け物に近づいていく姿は、とにかくカッコイイの一言だ。そのくせ、好きな女の子相手にはからきし情けなくなってしまうというギャップに、思わず苦笑してしまう。
『ヘルボーイ』は、日本での公開はディレクターズカット版で行われる。これは、アメリカ公開版に10数分を加えたもの。その内容は主に周辺キャラクターのエピソードであり、それぞれの人物像を掘り下げるものだ。おかげで上映時間は134分間と長大になってしまったが、個人的にはまったく長いとは感じなかった。
ナチス・ドイツのオカルト政策やら、ラヴクラフトのクトゥルー神話、実在の人物名などを使用した世界観も心踊るものがある。意外なことにサブカル系のファンのみならず、一般の人々にもわかりやすい、楽しい作品だ。あまり期待せずに行ったからかもしれないが、そういう人にとって『ヘルボーイ』は「案外面白い」という感想をもたらせてくれる掘り出し品といえるのではなかろうか。