『モンスター』75点(100点満点中)
主演女優の情熱が伝わってくる一本
全米初の女性死刑囚アイリーン・ウォーノスの半生を描いた衝撃的なドラマ。彼女が連続殺人を犯すことになった直接のきっかけである恋人との関係をメインに、主演女優が脅威の役作りで挑んだ渾身の一本。
1986年アメリカ、売春婦のアイリーン・ウォーノス(C・セロン)は、自殺する前に有り金5ドルを使い果たすつもりで入ったバーで、セルビー(クリスティーナ・リッチ)という名の女性と出会う。同性愛者である彼女もアイリーン同様、社会から疎外感を感じていた一人だった。生まれて初めて他者に受け入れられたアイリーンは、セルビーのためにもう一度人生をやり直そうと決意するが、コネも何もない街娼が簡単に復帰できる社会など、どこにもなかった。
母親が父親を撃ち殺したという壮絶な過去を持ち、自身も死刑制度反対論者である主演女優シャーリーズ・セロンの役作りは凄いの一語に尽きる。つらい環境からのし上がってきた女優だけに、もともと性根の座った人ではあるが、比較的これまで綺麗どころの役柄が多かっただけに、ここまでやるかという衝撃は激しいものがあった。
自慢のハリウッドスマイルは影を潜め、下卑た笑い方に言葉遣い。メークの力も借りた荒れ果てた肌と髪。そして、13キロの増量。まあ、13kgの増量自体はあのフレームのデカさ(彼女の身長は180cm近い)を考えれば大した数字ではないだろう、本当に凄いのは、体重ではなく大幅に体型を崩した事のほうだ。モデル出身でスレンダー美女の代名詞だった彼女が、あれほど酷い体型に変化した(劇中では脱いでいるので良くわかる)という事実には驚くほかない。
そんなわけで、この映画でのシャーリーズ・セロンは実際のアイリーン・ウォーノスそっくりに変化し、普段の彼女とは別人となっている。この役で彼女は見事アカデミー主演女優賞を受賞したが、文句なしの受賞といえるだろう。
共演で重要な役柄をこなすクリスティーナ・リッチも、目立たないながら光っている。彼女が女性を見つめる目はまさに本物のビアンそのものだし、心に傷をもちながらも自らの保身を最優先にしてしまう微妙な役柄を完璧に演じきっている。
映画は弱者からの視点でこの犯罪者の心を描いている。すなわち残酷に見える連続殺人にも理由はあった、というわけだ。実際のアイリーンは酷い生い立ちを持つ女性で、その一部は映画でも描かれているが、まさに文字通り救いがない。誰からも救われなかったために、悲惨な犯罪を犯すことになるわけだが、どこかで止められたのではないかと誰もが悔やむことだろう。
『モンスター』のアイリーンの姿を見ると、どうにもやりきれない気持ちになり、深い悲しみにおそわれる。ラストの法廷の場面では、セルビーとアイリーンが向き合うことになるのだが、果たしてどちらが人間として純粋なのか。まったくハッピーとは程遠いラストだが、深く心に残る感動がある。これは一人の女性の報われないラブストーリーでもあるのだ。
楽しい映画ではまったくないが、私は『モンスター』を強くお勧めしたい。製作にも参加したシャーリーズ・セロンの執念と情熱が伝わってくるすばらしいこの一本、見ごたえ充分である。