『堕天使のパスポート』80点(100点満点中)

オドレイの熱演とせつないラストが感動的

『アメリ』の、人々に幸せを与えるヒロイン役で人気爆発したオドレイ・トトゥ主演のイギリス映画。彼女が、慣れない英語のセリフで汚れ役を熱演、作品自体はアカデミー賞のオリジナル脚本賞にもノミネートされた。

舞台はイギリスのロンドン。トルコからの不法移民であるホテルメイド(A・トトゥ)は、同じ職場で働くアフリカ系黒人男性と、生活費の節約のため同居している。そんなある日、彼が職場のホテルで“あるもの”を見てしまったため、二人の運命が大きく転落して行く。

社会の底辺で過酷な暮らしを続ける不法移民の登場人物たちによるシリアスなサスペンスドラマ。「天使のような」誠実な男と、気高いイスラムの女。魅力的なキャラクターたちが、あまりに残酷な仕打ちを受けながら、それでもはかない夢をみる姿が絶望的に悲しい。

序盤は英国の下層社会のドロドロ部分を描いたディテールの面白さに引っ張られる。中盤は職場のホテルで”何かヤバイ事が起きている”というサスペンス要素で引っ張り、二人の過去や未来が明らかになる緊迫した終盤まで、まったく飽きずに97分間楽しめる映画だ。ラストも、ノーテンキにハッピーにしめるのではなく、すべてがパーフェクトではないが希望を残すという切ないもの。イギリスの人間ドラマらしく、落としどころが絶妙だ。

オドレイは本作において、セックスシーンを含めてこれまでの作品の中では最も衝撃的な演技を見せる。スクリーンでの存在感、演技力とも申し分ない。すばらしい女優である。過去の出演作も傑作揃いで恵まれており、今後も期待したい。もちろん、他の共演者たちも、それぞれ人間味あふれるキャラクターを生き生きと演じており、映画の完成度を高めている。

貧乏で何のツテもないか弱きヒロインたちが、命がけで仕掛ける最後の賭け。クライマックスに訪れるさわやかな感動。決して派手な映画ではないし、オドレイの出演作の中でも異色だが、私は『堕天使のパスポート』を大人の皆様におすすめしたい。ちっぽけな労働者たちが必死に奮闘し、未来をちょっぴりだけ変えるこのストーリーは、明日への希望にあふれている。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.