『ドット・ジ・アイ』70点(100点満点中)

事前に必要な情報はこれだけで十分

イギリス=スペイン合作のミステリードラマ。「dot the i」とは、「細かいトコに気を使う」という英語の慣用句からきている。この大胆なプロットのミステリーにふさわしい、意味深なタイトルだ。

主人公カルメンは、ストーカーから逃げてきたロンドンで、優しくてハンサムなお金持ちの男性と婚約を交わす。ところが、その晩開かれた女友達とのパーティで出会った男性キットに心引かれてしまう。さらに、それと前後して彼女は、何者かに監視されているような不気味な不安を感じ始める。

ヒロインが女友達と仮装してバカ騒ぎするパーティは、イギリスで俗に「ヘンナイト・パーティー」と呼ばれるもので、この映画では主人公の独身最後のキスを、そのレストランに偶然来ていた男性の誰かを選んでするという企画になっている。そして、その名誉ある相手に選ばれた男性に、ヒロインが思わず本気でひかれてしまうというのが序盤のストーリーである。

そんな変わった習慣を見ているだけでも楽しいものだが、そこから先この映画は、ミステリー色をぐんと強くした展開に入る。“誰か”の視線から見たと思われるアングルによる、思わせぶりなカットが時折挿入され、謎の第三者の存在を観客に意識させる。これがいったい誰なのか、目的は何なのか。先の展開はまったく読めない。

個性的な登場人物、謎の傷跡、なかなか明らかにならないヒロインの過去……興味をひく謎の数々。ミステリとしての魅力的な要素が全体にちりばめられている。ラストの事件は少々荒っぽいが、そこそこ意外性があって面白い構成だ。

ファーストシーンには往年の大女優ドリス・デイの歌が流れ、冒頭のデートシーンで写されるヒロインのあまりのかわいらしさもあって、一気にひきつけられる。92分間、途中で飽きることなく見ることができるだろう。

──さて、ここまで読んで、ちょいと違和感を感じた方はいるだろうか。「肝心の内容について、核心を書いてないじゃないか」という感想を持った方はなかなか鋭い。

このサイトはもともと映画の内容について詳細に論評するサイトではなく、「見る前に読むことで本編をより楽しめるように」もしくは「本編への興味が増す」ための文章を掲載しているわけであるが、『ドット・ジ・アイ』についてはより意識して断片的な情報を紹介するにとどめた。

それは、この映画の性質上、事前にあまり情報を持たぬまま見たほうがより楽しめると私が判断したからだ。であるからして、興味を持った方はあえてほかの情報を仕入れることなく、さっさと見にいってしまうことをオススメする。佳作が集まるサンダンス映画祭の中でも、絶賛された理由がきっとわかるだろう。



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